研究概要 |
本年度に得られた成果は以下の通りである. 1.複数のアサガオ自殖系統について,花弁の可視的老化を定量的に評価した.その結果,本研究課題の実験材料であるアサガオ系統'北京天壇'および'獅子牡丹'において,花弁老化の開始および進行時間に顕著な差異を検出した.また,切り花へのエチレン阻害剤処理が花弁老化に及ぼす影響を評価し,'北京天壇'および'獅子牡丹'では,花弁老化に関与する内生エチレンの役割にも差異があることを明らかにした. 2.'北京天壇'および'獅子牡丹'の開花前後の花弁について,次世代シークエンサーを用い,mRNAの大規模配列解析を実施した.35塩基シングルリードで解析を行い,9,265万リード,32億3千万塩基のデータを得た.これらのデータについて,データ解析ソフトを用い,denovoアセンブルを行ったところ,54,563個のコンティグを得た.現在,得られたコンティグの精度解析を試みている. 3.'北京天壇'×'獅子牡丹'のFlを育成し,約1,000粒のF2種子を得た.両親,F_1およびF_2個体を育成し,各個体について,花弁老化を定量的に評価した.その結果,花弁老化の開始時間(TOI)について,F1では両親の中間的な値が示され,F2では分離が見られた.その分離比は,主働遺伝子が3種類と仮定したときの理論比27:36:1に合致することを確認した. 4.アサガオ品種'紫'の開花前の花蕾が受ける明暗条件の違いが花弁老化の制御に関与することを明らかにした.また,SSH法により花弁老化の制御に関与しうる多数の暗期応答遺伝子を同定することに成功した. 5.アサガオの花弁老化関連遺伝子について,RNAi法による発現抑制体を作成し,機能解析を行ったところ,14-3-3タンパク質をコードするIn42が花弁の展開や花弁細胞のプログラム細胞死に関与することを明らかにした. 以上の成果は,花の寿命を支配している遺伝子群を同定するうえで有用な知見であると判断される.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では,実験材料であるアサガオのゲノム解読が完了していないため,次世代シークエンサーで得たデータを用いて発現解析やSNP検出を行うためには,denovoアセンブルにより構築したmRNAコンティグをリファレンス配列として用いる必要がある.リファレンスとして最適なコンティグを作成するため,denovoアセンブルを行う際の解析ソフトの選定やパラメータの設定に多くの時間を要しており,当初の計画よりも遅れている.
|
今後の研究の推進方策 |
denovoアセンブルによるmRNAコンティグ(リファレンス)の構築を完了させるため,バイオインフォマティクスの専門家から助言を得て,データ解析の効率化を図るとともに,75塩基ペアエンドリードでのmRNAの大規模配列解析を行い,アセンブルに用いるデータ量を増加させる.また,当初の計画では,花の寿命を支配している遺伝子群の同定に,花弁老化の系統問差異のみを利用することにしていたが,今後は,花蕾が受ける明暗条件の違いやIn42の発現抑制体など,花弁老化に関する最新の知見や実験材料も利用していく予定である.さらに,遺伝子の同定を効率的に進めていくため,近年開発された'MutMap'と呼ばれる手法の導入も検討している.
|