本年度に得られた成果は以下の通りである. 1. 前年度まで,アサガオ品種‘紫’の暗期誘導性の開花に関わる2種類の暗期応答遺伝子を特定し,それらの遺伝子の花弁での転写が概日時計による制御を受けていることを示唆する結果を得た.本年度は,その転写制御への関与が示唆される中心振動体遺伝子のアサガオホモログについて,異なる長さの暗期を処理した花弁における転写量の変動を調査し,それらの遺伝子が明暗条件による転写制御を受けていることを確認した.また,アクアポリン遺伝子やエンド型キシログルカン転移酵素/加水分解酵素遺伝子のアサガオホモログの一部が開花時の花弁において暗期誘導的に転写されることを確認し,それらの遺伝子の発現により花弁細胞の浸透圧低下や細胞肥大が生じることで開花が誘導されていることが示唆された.
2. 花持ち性に差異のあるアサガオ5品種の切り花に異なる濃度のエチレンを処理し,花弁老化への影響を調査した.その結果,花持ちの悪い品種ほど低濃度のエチレン処理で花弁老化が促進され,花持ち性の品種間差異に花弁のエチレン感受性の違いが関与することが示された.また,各品種の花弁におけるエチレン受容体ETR2遺伝子の発現解析の結果から,品種間のエチレン感受性の違いには,開花時の花弁におけるETR2の存在量の違いが関与することを示唆する結果を得た.
3. アサガオ品種‘紫’で同定した花弁老化関連遺伝子InPSR42について,RNAi法による発現抑制が表現型に及ぼす影響を調査した.その結果,野生型に比べ,発現抑制体では花弁老化の進行が促進され,種子の生産性が高まる傾向が示された.一方,花弁細胞における核DNA量の減少は抑制されていた.また,InPSR42の発現抑制体と野生型の花弁について,次世代シーケンサーを用いた比較トランスクリプトーム解析を行い,InPSR42の制御下にある遺伝子群を推定した.
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