本研究では、サリチル酸 (SA) の生合成・輸送機構を解明するため、以下の3課題を実施した。 <1. SA生合成経路の新規構成因子の同定> 本課題の目的は、傷害に応答しSAを蓄積するWIPK/SIPK抑制 (WS) 植物を用いて、SAの生合成機構を解明することである。本年度は、昨年度同定した過剰発現によりSAの蓄積を誘導する遺伝子 (情報伝達や転写に関与すると予想される) の機能解析を行った。また、SA合成酵素遺伝子を同定するため、1) 上記遺伝子よりも遅く、2) SAの情報伝達や代謝に関与する遺伝子よりも早く、3) 傷害によりWS植物で特異的に誘導される遺伝子を同定した。同定した候補遺伝子の多くは二次代謝に関与する酵素をコードすると考えられたため、現在これらの酵素がSA合成に関与するか調べている。
<2. SA生合成へのBA2HおよびICSの関与> 本課題の当初の目的はBA2HとICSの機能解析であったが、24年度までの研究においてBA2Hに関する過去の報告を再現できなかったため、現在の目的はICSの機能解析である。今年度はシロイヌナズナのICS (AtICS1) とイネのICS (OsICS) 間で各種キメラおよび変異体を作製し、AtICS1の葉緑体移行シグナルが植物葉におけるタンパク質の蓄積量を増加させること、AtICS1のC末端領域に存在する少なくとも3つのアミノ酸が高いICS活性に関与することを明らかにした。
<3. SAの色素体外輸送機構の解明> 本課題の目的は、薬剤処理によりSAの合成を誘導できる形質転換体を作製し、SAの輸送・情報伝達機構を解明することである。昨年度までに作製した人工SA合成酵素遺伝子をエストラジオール制御下で発現する形質転換体においては、SAの蓄積が薬剤により誘導されなかった。そのため本年度は、デキサメタゾン誘導性プロモーター制御下で人工SA合成酵素遺伝子を発現する形質転換体を作製し直すと共に、一過的発現系を用いた薬剤によりSAの合成を誘導できる実験系の構築について検討した。
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