研究課題
若手研究(A)
本年度は、「ガングリオシドの合成」「合成ガングリオシドおよびその糖鎖部分を用いた神経突起伸展活性試験」を計画し、ガングリオシドのPC12細胞に対する神経突起伸展作用に関する構造活性相関研究を中心に実施した。まず、ガングリオシドの合成では、ヒトおよび哺乳動物の中枢神経系に高発現するガングリオシドX2の全合成および神経突起伸展活性が天然物で確認されている棘皮動物ガングリオシドであるHPG-1,HPG-7,CJP-2、GAA-7の糖鎖部分の合成に初めて成功した。また、合成品を用いて神経突起伸展活性を確認したLLG-3の糖鎖類縁体(三糖糖鎖、四糖糖鎖)の合成も行った。神経突起伸展活性試験では、合成GQ1bガングリオシド、GQ1b糖鎖、新たに合成したLLG-3糖鎖、HPG-1糖鎖、HPG-7糖鎖、HPG-7ガングリオシドを用いてNGF(5nM)存在下でのPC12細胞に対する活性を評価した。その結果、HPG-1糖鎖、HPG-7糖鎖、HPG-7ガングリオシドにおいて有意な伸展活性が認められなかった。一方、GQ1bガングリオシド、GQ1b糖鎖、LLG-3ガングリオシド、LLG-3糖鎖には有意な活性が認められた。このことから、ガングリオシドの活性発現には、糖鎖末端にジシアル酸を有することが必要であり、また脂質部分は必須でないことが示唆された。しかし、糖鎖末端にジシアル酸を有するGD3糖鎖には活性が認められなかったことから、ジシアル酸の微細構造の差異が活性発現に影響している可能性が示された。この結果を受け、LLG-3糖鎖に含まれるジシアル酸構造中のメチル基を欠く糖鎖類縁体を合成し、活性の有無を調べることとした。現在まで合成が完了し、PC12細胞を用いた活性試験を実施中である。
2: おおむね順調に進展している
初年度に計画したガングリオシドの化学合成で標的とした5つの分子のうち4つの分子の糖鎖部分の合成または全合成に成功することができた。また、種々の糖鎖およびガングリオシドを用いた活性試験では、計画通り、高活性のガングリオシドを選抜することができた。さらに、糖鎖のみでも神経突起伸展活性が発現することが明らかとなった。以上の成果は、初年度計画の到達目標をほぼ達成しているため、達成度(2)とした。
今後は、構造活性相関研究においては、当初の計画通り活性発現に必須の最少有効構造を探索するために、糖鎖類縁体の合成を進める。この目的の達成のためには、活性に重要なシアル酸残基の構造の省略にも挑戦する予定である(シアル酸ミミックの開発)。また、PC12細胞に対する伸展活性が天然由来のガングリオシドを用いて確認された値よりも概して下回っていることから、PC12と同様な神経細胞(Neuro2aなど)に対する活性も合成品を用いて試験する予定である。
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