研究課題/領域番号 |
23688015
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
近藤 竜彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (30362289)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2015-03-31
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キーワード | ペプチドホルモン / 気孔 / stomagen / EPF family |
研究概要 |
a) EPFファミリーペプチドの網羅的解析 前年度までの研究から、シロイヌナズナ以外にもハクサイ、ダイズの細胞間隙(アポプラスト)抽出液中にシロイヌナズナstomagenと同様のプロセシングを受けた45残基のstomagenホモログが存在することを明らかにした。ハクサイの場合には、化学合成したstomagenを幼葉に処理することで気孔密度の上昇が見られたが、ダイズでは見られなかった。ダイズは植物体が大きく、処理に必要なstomagen量も非常に多くなるため、生物検定に用いるペプチドの大量供給を目的としてBrevibacillusを用いた発現系について検討した。その結果、stomagenおよびEPF1については、分子量の一致するペプチドをBrevibacillusに分泌生産させることに成功した。今後、その立体構造と生理活性について検討する予定である。 b) stomagen受容体の探索 前年度までの研究から、化学合成した光アフィニティプローブとシロイヌナズナ幼葉の表皮を用いてラベル実験を行った結果、約60kDaと約120kDaのタンパク質がラベルされ、その精製法について確立した。本年度はこの精製法によって精製したタンパク質をトリプシンで消化し、タンパク質の同定を試みたが、量的な問題から同定には至らなかった。この問題を克服するために、シロイヌナズナよりも植物体が大きく、stomagenが生理活性を示すことが明らかになったハクサイの幼葉を用いたラベリング実験についても検討したが、特異的にラベルされたタンパク質を検出することはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の長期的目標の一つはstomagenおよびEPFファミリーペプチドによる表皮上の気孔密度調節を通して、耐乾燥性などの機能性植物を作出することにある。そのためには、シロイヌナズナ以外の植物におけるstomagenおよびEPFファミリーペプチドの構造と機能を明らかにする必要があるが、イネ科植物などよりもシロイヌナズナに遺伝的に近いダイズにおいても合成ペプチドの生理活性を確認することができなかった。免疫沈降実験から、ダイズにおいてもシロイヌナズナと同様の成熟型構造を持つstomagenペプチドが存在することから、生理活性が確認できないのは合成ペプチドの量的問題および浸透性の問題が予想よりも深刻であると考えている。ペプチドの供給量に関する問題を解決するためにBrevibacillusを用いた分泌発現系について検討し、分泌生産させることに成功しており、今後、大量のペプチドを用いた生物検討について再検討する予定である。 また、stomagen受容体の同定への取り組みに関しては、光アフィニティラベル法によって受容体候補タンパク質をラベルし、検出することには成功したが、シロイヌナズナの幼葉から顕微鏡下でピンセットを使って剥離した表皮を出発原料にしているために、試料の大量調製が困難であり、その結果、現在まで受容体の同定には至っていない。この点に関しては、光アフィニティプローブの再設計、超音波破砕機などを用いた表皮調製法の効率化とスケールアップ、ハクサイ表皮を用いたラベリング条件の再検討など、実験条件をより最適化することによって、受容体の同定を実現したいと考えている。以上の状況から、当初の研究目的に照らして若干の遅れが生じていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
EPFファミリーペプチドの網羅的解析に関しては、研究実績の項で述べたようにBrevibacillusを用いたペプチドの大量供給について引き続き検討する。大量供給法を確立したら、改めてダイズやその他の有用作物のstomagenおよびEPFペプチドを大量生産し、得られたペプチドを用いてその生理機能について明らかにしていく予定である。 また、stomagen受容体の同定に関しては、ラベル実験のスケールアップが急務である。これを実現するために、大きく二つの対策を検討する予定である。 1) プローブの再設計:従来のプローブは分子中央のループ構造部分のアミノ酸を光反応性のphoto-Leucineと置換したものである。このプローブはシロイヌナズナに対して生理活性を示し、受容体をラベルすることができるが、ハクサイの受容体をラベルすることはできなかった。そこで、相互作用に重要な分子中央部ではなくN末端に光反応基を導入した新たなプローブを合成し、もう一度ハクサイ表皮を用いたラベル実験を試みる。さらにプローブに蛍光物質ではなくアルキンを導入し、クリックケミストリーによってラベル反応後に蛍光物質を導入して目的タンパク質を検出することについても検討する。蛍光物質の代わりにアジド固定化ビーズを用いることで、目的タンパク質を効率よくビーズ精製することも可能である。 2) 表皮の調製法の再検討:現在、ラベル実験に用いる表皮は1mm以下のシロイヌナズナ幼葉から実体顕微鏡下でピンセットを用いて剥離するという方法で集めている。この過程は非常に手間がかかり効率が悪いが、幼葉全体を用いてラベル実験を行っても目的タンパク質のバンドが観察されず、精製に必須のステップである。そこで、回収した幼葉を超音波処理し、葉肉細胞を物理的に取り除き表皮を効率よく得る方法について検討し、ラベル実験のスケールアップを実現する。
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