研究課題/領域番号 |
23688020
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齋藤 継之 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教 (90533993)
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キーワード | セルロース / ナノファイバー / 自己組織化 / ゲル |
研究概要 |
環境及びエネルギー問題への意識の高まりから、材料科学分野では再生産可能な資源の活用、そして省エネルギーかつ低環境負荷のプロセス構築が急務とされている。木質バイオマスの主成分であるセルロースを水中、常温常圧下の簡便なプロセスで高性能材料へと変換することは極めて有意義である。 そこで本研究は、水中分散したセルロースミクロフィブリルが自己配列して精緻な高次構造を形成することに着目し、優れた素材特性を有するセルロースミクロフィブリルの自己配列体を、既存の人工材料を超えた機能・性能を有する新規バイオベース材料へと展開することを目的とした。 本年度は、自己配列したミクロフィブリルの水分散体からヒドロゲルを調製する検討に焦点を絞った。水中分散したミクロフィブリルは高アスペクト比を有するため、排除体積効果によりネマチック液晶状に自己配列する。このミクロフィブリルの表面には高密度のカルボキシル基が存在し、その電離により分散安定化している。そこで、静置した分散液に希酸を滴下(pH低下)したところ、分散液はミクロフィブリルの配列秩序を固定化した物理ヒドロゲルへと転移した(pHを中性に戻してもゲルのまま)。ヒドロゲルは非常に透明であり、固形分率わずか0.1%でも自立した。固形分率を0.4%まで上げると、ゲルを摘み上げて振ることもできた。この0.4%ゲルの平衡弾性率は10kPaに達しており、同濃度で比較した場合に既報のあらゆるヒドロゲルよりも高い数値であった。このゲルの弾性率は固形分率に大きく依存し、0.1%から1%に固形分率が上昇すると、弾性率は1000倍にもなった。さらに、ゲルにイオン性の染料分子を吸着させたところ、ゲル内の全ナノ構造表面を自己集合した染料分子が被覆するという、特異的なハイブリッド構造を形成した。以上の結果から、本ヒドロゲルは細胞培養基材や医療用材、そして各種機能性分子の担体としての展開が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した本年度の計画は、滞ることなく進展し、非常に良好な結果が得られた。次年度以降の検討に期待の持てる成果であり、計画当初には想定していなかった新たな研究展開が示された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討では、自己配列したセルロースミクロフィブリルの水分散体から、透明で高強度のヒドロゲルを調製するプロセスを確立した。次年度は、このヒドロゲルをエアロゲル(ナノ多孔材)に変換するプロセスを確立し、その基礎的な材料特性を明らかにする。ヒドロゲル内部のナノ構造を破壊せずにエアロゲル化するために、変換プロセスは凍結乾燥法と超臨界乾燥法の2種類について検討する。得られたエアロゲルについて、光透過度、密度(空隙率)、比表面積、熱伝導率、圧縮強度等について評価を進め、断熱材や衝撃吸収材等としてのポテンシャルを明確にする。
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