本研究課題では、魚類養殖現場で赤潮や魚病の発生時に行われている、餌止め(絶食)による生体防御効果(絶食効果)を科学的に解析している。昨年度までにマダイやブリなどの養殖魚を用いて、絶食処理に伴い、呼吸量や血中グルコース量に加え、血中における特定のアミノ酸濃度や、一部の臓器におけるエネルギー代謝量(ATP量)が減少することを明らかにしている。また、魚病感染や有害赤潮プランクトンの暴露においても、特定のアミノ酸が変化することなどを明らかにしている。そこで、本年度はマダイを用いてEdwardsiella tarda (E.tarda)の感染実験を行った結果、給餌群よりも絶食群において、血中の各種免疫関連因子や糖代謝等の代謝関連因子が高い値を示した。すなわち、養殖魚における絶食処理が魚病感染に対して正の効果を示すことが明らかになった。これは、摂食・消化に掛かるエネルギーの消費を抑え、免疫・代謝に多く分配するためと考えられた。一方、ブリに対して有害赤潮プランクトンのKarenia mikimotoi (K.mikimotoi)を曝露した結果、呼吸量の増大と最終的な酸欠症状による死亡が観察された。餌止め時には呼吸量の低下が起こることから、これが絶食時の酸欠に対する抵抗性を高める一因であると考えられた。直接的には有害プランクトンによる鰓の損傷がみられることから、餌止め時の鰓の損傷は呼吸量の低下により軽減されると考えられた。ただし、摂食・消化による呼吸量の違いのみで、絶食効果を説明するのは不十分であり、絶食による栄養素の低下に起因した興奮抑制の効果など、複合的な要因も示唆された。
|