研究課題/領域番号 |
23688035
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清川 泰志 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (70554484)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 警報フェロモン / 安寧フェロモン / 社会的ストレス緩衝作用 / 揮発性分子 / 鋤鼻系 / 主嗅覚系 / 分界条床核 / 扁桃体 |
研究概要 |
本年度に得られた主要な成果は以下の通りである 1.警報フェロモンに関する研究 これまでの研究結果より警報フェロモン候補分子として挙げられた2物質は、聴覚性驚愕反射試験のみならず改良型オープンフィールド試験においても、非常に低濃度でフェロモン効果を引き起こすことが明らかとなった。またこれらの物質の受容経路を検討した結果、1物質は鋤鼻系のV1R受容体を介して、もう1物質は主嗅覚系を介して受容されるというように、2つの嗅覚系がそれぞれ1物質ずつ受容していることが明らかとなった。またこの2物質がフェロモン効果を引き起こす神経メカニズムを検討した結果、2物質が2つの嗅覚系から同時に受容された時のみ、不安に重要な役割を担っている分界条床核を活性化させることが明らかとなった。これらの結果より、この2物質が警報フェロモン分子である可能性が非常に高いことが示唆され、この結果を公表すべく準備を整えている。 2.安寧フェロモンに関する研究 前年度の研究結果より揮発性であることが確認された安寧フェロモンを、効率的に捕集する装置の開発を行った。その結果、捕集に着眼した実験装置においても、これまでと同様に安寧フェロモン効果を観察することを可能とする手技を確立することができた。また、行動学的に観察していたフェロモン効果を、内分泌学的にも確認することができたため、安寧フェロモンの存在を支持する証左をさらに得た。さらに、社会的距離が近いラットの方が、社会的距離が遠いラットと比較して、より強いフェロモン効果を引き起こす事が明らかとなったため、社会的距離に応じてフェロモン効果を修飾する外部システムの存在が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
警報フェロモン候補分子である2物質がフェロモン分子であることを支持する様々な行動学的結果を得ることができ、また2物質が不安を惹起する神経メカニズムの解析も行うことができたため、この2分子が警報フェロモン分子であるという説得力のある結果を得ることができた。また安寧フェロモンに関しても、フェロモン分子同定に向けた手技や装置の開発に成功したのに加え、フェロモン分子同定をサポートする様々な情報を得ることができた。以上を勘案すると、研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
警報フェロモンに関しては、同定された警報フェロモン分子を用いることで検討が可能となった、警報フェロモンを受容する鋤鼻受容体の同定を目指す。これまでの研究結果により、鋤鼻レセプターの中でもV1R受容体が重要な役割を担っていることが示唆された。そのため、in vivo、in vitroの両面から、V1R受容体に焦点を当てつつフェロモン受容体の同定を目指す。またフェロモン効果の脳内神経メカニズム解明に向けて、不安に関連すると報告されている分界条床核の役割を検討する。 安寧フェロモンに関しては、捕集した揮発性物質をガスクロマトグラフィーによって分析を行うということを念頭に置き、実験装置をさらに改良していくとともに、フェロモンの吸着剤を選定する。また、様々な系統間で安寧フェロモン効果を比較検討することで、全ての系統のラットが保有する揮発性物質や、ある系統のラットは保持しない揮発性成分を見出すことが可能かを検討していく。さらにフェロモン効果の神経メカニズムを解明するため、これまでの研究結果より想定される神経回路をより詳細に検討していく。
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