研究課題
アミノ酸は、DNA・タンパク質と共に根元的に生命活動を担う重要な分子である。アミノ酸には、光学活性の違いからL体とD体が存在し、我々の生体を構成するアミノ酸のほとんどがL体として機能している。しかし、近年の分析技術の進展に伴い、D体も生体内に存在することが分かり、中でも、脳内に豊富に存在していることが明らかになってきた。そこで本研究は、脳内に豊富に存在するD-アミノ酸のひとつ、D-セリンのシナプス機能および記憶・学習過程への関与について、その理解を大幅に進めることをねらいとし、研究代表者らが発達期小脳において見出した、シナプス可塑性(シナプス伝達効率の可塑的変化)と運動記憶・学習を制御する新しいD-セリンシグナリング(Dセリン→デルタ2受容体シグナリング)の分子機構と制御様式について追究することにした。まず、小脳シナプス可塑性のひとつである長期抑圧現象(long-torm depression;LTD)を制御するD-セリン→デルタ2受容体シグナリングに関わる分子を明らかにするため、デルタ2受容体の細胞内領域に結合するチロシン脱リン酸化酵素prPMEGの発現を欠く遺伝子欠損動物においてD-セリン依存性LTD)記録を行ったところ、デルタ2受容体欠損マウスと同様、LTDは認められなかった。すなわち、LTDを制御するD-セリン→デルタ2受容体シグナリングにPTPMEGが寄与している可能性が示唆された。次にPTPMEGの基質について解析を行った結果、シナプス伝達機能に関与するいくつかのタンパク質を同定することに成功した。今後、PTPMEGによって修飾されるタンパク質の機能変化および局在変化を観察し、LTDとの関連性について解析を進めていきたい。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度は、D-セリン→デルタ2受容体シグナリングの分子メカニズムの解明を大きな目標とし、電気生理学・生化学的手法を用いて研究を進めてきた。その結果、上記シグナリングを担ういくつかの候補分子の同定に成功した。中でも、そのひとつであるPTPMEGの発現を欠く遺伝子欠損マウスでは、D-セリン依存性小脳HDが誘導されないことから、PTPMEGが上記シグナリングに寄与しうることが示唆された。したがって、本研究課題の研究目標の解明にむけて、現段階においておおむね順調に進展していると言える。
当初の予定通り、シナプス可塑性および運動記憶・学習を担う新規D-セリン→デルタ2受容体シグナリングの【課題1】分子機構の解明と【課題2】制御方法の確立を大きな目標とし、本年度も、昨年度に引き続き、【課題1】に着手する。具体的には、これまでの実験で得られた候補分子に着目し、これら分子を人為的に阻害・制御した際の影響を、電気生理学実験・蛍光イメージング・小脳運動学習課題により評価する。また、今年度は、昨年度の分子・細胞レベルでの観察に加え、個体レベルでの事象(小脳依存性運動記憶学習)への関与について観察することにより、D-セリン→デルタ2受容体シグナリングのメカニズムをより多角的に追究していく。尚、現段階において、研究計画の変更を強いられるような大きな問題点は生じていない。.
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http://www.yuzaki-lab.org/