研究概要 |
D-セリンは、脳内に豊富に存在するD型アミノ酸のひとつである。研究代表者らは近年、発達期小脳において、D-セリンがデルタ2型グルタミン酸受容体 (デルタ2受容体) に結合し、記憶・学習の分子基盤とされるシナプス可塑性を調節することを見出した。そこで本研究では、この新規D-セリンシグナリングについて解析を進めることにした。まず、シナプス可塑性を制御するデルタ2受容体の下流機構を明らかにするため、デルタ2受容体との結合が知られているチロシン脱リン酸化酵素 (PTPMEG) のKOマウスを用い、シナプス可塑性記録を行った。すると、このKOマウスではシナプス可塑性が障害されていた。次に、PTPMEGの基質を生化学的に追究した結果、シナプス可塑性の実行系を担うAMPA受容体が同定された。また、驚くべきことに、PTPMEGによるAMPA受容体の脱リン酸化修飾を阻害すると、野生型マウス標本においてもシナプス可塑性が阻害されることが分かった。すなわち、デルタ2受容体は、PTPMEGと結合することで小脳シナプス可塑性を促す「ゲートキーパー」として働いていることが示唆された (Kohda*, Kakegawa* et al., PNAS, 2013; *共同筆頭著者) 。次に、シナプス可塑性を伴うAMPA受容体の動態変化を追究した。その結果、AMPA受容体は、細胞内タンパク質であるStargazinとアダプタープロテイン (AP2 or AP3) と神経活動依存的に3者複合体を形成し、この結合様式の変化がシナプス可塑性につながるAMPA受容体のダイナミックな動態をもたらすことが分かった (Matsuda, Kakegawa et al., Nat Commun, 2014)。今後、シナプス可塑性を伴う上記動態および分子機構がD-セリンによって調節され得るかについて検討していきたい。
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