研究課題
概日時計と老化/老化関連疾患の関連性が近年示唆されているが、遺伝子/分子レベルでの理解は不明のままである。本研究では、概日NAD+変動の生理的意義を細胞・臓器・個体という異なった階層で解析し、概日時計崩壊による老化関連疾患発症機構の一因が概日NAD+変動破綻によることを解明することを目標としている。本年は、初年度に樹立したNAD+を合成する酵素を恒常的に発現するトランスジェニック(Tg)マウスを用いて概日NAD+変動破綻が老化関連疾患発症に関わっているかを検証した。(1)個体レベルでの検証;Tgマウスおよび同腹仔野性型マウスの体重変化を経時的に測定した結果、普通食では体重変化に差異は見られなかった。しかし高脂肪食では、野生型マウスに対してTgマウスの体重増加は優位に抑制されていた。また糖負荷実験により、Tgマウスは高脂肪食でも耐糖能を有していることも明らかになった。(2)細胞レベルでの検証;細胞内NAD+量の上昇が脂肪細胞分化に影響をおよぼすかを検証するために、脂肪前駆細胞である3T3-L1細胞を用いて脂肪細胞分化の程度を調べた。その結果、細胞内NAD+量を恒常的に上昇させると脂肪細胞分化が抑制されることを細胞内中性脂肪蓄積量および脂肪細胞分化マーカーの発現量を調べることで明らかにした。以上の結果は、脂肪分化・蓄積と細胞内NAD+量が負の相関関係にあることを示唆している。今後は肝臓、骨格筋など他の組織の関連も検証し、細胞内NAD+量と肥満の分子メカニズムを明らかにしていく。
2: おおむね順調に進展している
恒常的NAD+合成酵素高発現Tgマウスが老化関連疾患のひとつである肥満・糖尿病に対して抵抗性を示すことが個体・細胞レベルで示唆することができた。その原因の一つとして恒常的NAD+量上昇が脂肪細胞分化を抑制することも明らかにした。問題点は、本Tgマウスは野性型マウスと比較し、出産頻度が少ないため、実験に必要なマウスの確保が困難なことである。
今後はTgマウスの脂肪細胞、肝臓、骨格筋など糖・脂質代謝に関わる組織に注目し、細胞・臓器・個体のそれぞれのレベルでどのように概日NAD+代謝が肥満・糖尿病に関与しているかを解明する。具体的には、1)細胞レベルでの解析:インスリン分泌能、グルコース取り込み能や関連遺伝子発現をTgマウス由来初代細胞で検証する。2)臓器レベルでの解析:糖・脂質代謝関連遺伝子発現などを高脂肪食もしくは普通食給餌 Tgマウス由来各臓器で検証する。3)個体レベルでの解析:高脂肪食もしくは普通食給餌Tgマウスを用いて、グルコース依存性インスリン分泌、ブドウ糖負荷試験、インスリン負荷試験などを行う。また肥満・糖尿病以外の老化関連疾患についても検証を続け、概日NAD+代謝の生理的意義を解明する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 110(9) ページ: 3333-3338
10.1073/pnas.1214266110