概日時計と老化/老化関連疾患の関連性が近年示唆されているが、遺伝子/分子レベルでの理解は不明のままである。本研究では、概日NAD+変動の生理的意義を細胞・臓器・個体という異なった階層で解析し、概日時計崩壊による老化関連疾患発症機構の一因が概日NAD+変動破綻によることを解明することを目標としている。 本年度は昨年度に引き続き高脂肪食負荷による成獣Nampt高発現トランスジェニック(Tg)マウスの体重変動を観察した。昨年度見られていたTgマウスでの体重増加の抑制が、サンプル数を増やした結果、対照野生型マウスと比べて有意な差が見られなくなった。また他の4系統のTgマウスでも、高脂肪食負荷による体重増加、糖負荷後の血糖値・インスリン値の変動に対照野生型マウスとの差異が見られなかった。これらの結果より、成獣期での高脂肪食負荷による体重増加などには、NAD+上昇は効果を示さないことが明らかになった。 Tgマウスを用いた概日行動周期の解析を行った結果、対照野生型マウスの概日行動周期と比して有意な周期長の変化は観測されなかった。さらに、Tgマウス由来線維芽細胞とNampt安定発現NIH3T3細胞を用いた細胞レベルでの概日時計への影響を調べた結果、Nampt/NAD+高発現条件では概日時計遺伝子の発現周期に影響を与えないことが明らかになった。これらの結果より、個体レベル(成獣期)および細胞レベルでNAD+上昇は概日時計に影響を与えないことが示された。 一方で、培養細胞内NAD+を減少させると、細胞内NAD+減少量依存的に概日時計遺伝子の発現周期が延長することを見出した。加齢に伴う概日時計周期の延長、組織内NAD+の減少がそれぞれ報告されているため、今回の知見は加齢・NAD+代謝・概日時計の統合的な理解の一端になるかもしれない。
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