研究課題/領域番号 |
23689022
|
研究種目 |
若手研究(A)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮川 卓 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20512263)
|
キーワード | ゲノム / 遺伝学 / ゲノムワイド関連解析 / ナルコレプシー / 睡眠障害 / カルニチン / 脂肪酸代謝 / Copy number variation |
研究概要 |
既に同定したナルコレプシーの感受性遺伝子以外にも、ナルコレプシーと関連する遺伝子があると考えられる。これまでに、日本人のナルコレプシー患者から採取したDNAサンプル約400例及び健常者DNAサンプル約1,600例を用いたゲノムワイド関連解析を行い、疾患感受性の候補SNP(Single nucleotide polymorphism)を選択した。さらに、CNV(Copy number variation)解析及びSNP間の相互作用解析を実施し、疾患と関連する候補領域を見出した。そこで、この候補SNP及び候補領域に対して、独立の新規サンプルセットを用いた関連解析を再度行い、再現性を確認することが重要となる。そのため新規ナルコレプシー患者のDNAサンプルを収集し、これまでに250例にまで達した。さらにナルコレプシー以外の過眠症のゲノムワイド関連解析も行い、疾患感受性の候補SNPを選択した。再現性研究を実施するため、同様に約100例の患者DNAサンプルを収集した。 ナルコレプシーの病態と脂肪酸β酸化との関係を解明する研究に関しては、これまでの研究結果から、ナルコレプシーにおける脂肪酸β酸化(特にカルニチンシャトル)の異常を想定している。そこで、カルニチンシャトルを促進させる働きのあるL-カルニチン(1日510㎎投与)をナルコレプシー患者に経口投与し、その有効性を検証した。試験デザインは二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験で、投与期間は各8週間とした。その結果、L-カルニチン投与期の居眠り時間(主要評価項目)の有意な減少を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナルコレプシー及びその他の過眠症のゲノムワイド関連解析、CNV解析及びSNP間の相互作用解析を行い、疾患感受性の候補SNP及び候補領域を見出している。そのため独立の新規サンプルセットを用いた解析により、再現性を確認することが重要となる。ナルコレプシーやその他の過眠症は、決して患者数が多い疾患ではないため、そのDNAサンプルの収集は容易ではない。そこで、全国約15の医療機関と提携し、患者DNAサンプルを収集できる体制を構築した。その成果として、これまでに新規ナルコレプシー患者のDNAサンプル250例、その他の過眠症患者のDNAサンプル100例の収集に成功した。 さらに、L-カルニチン(1日510㎎投与)をナルコレプシー患者に経口投与し、その有効性を確認した。本研究はL-カルニチンがナルコレプシーの治療に有効であることを示すだけでなく、現在脂肪酸β酸化をターゲットとしたナルコレプシー治療薬はないことから、新たな治療薬の開発に貢献することも期待される。 また、これまでに私が行ったナルコレプシーの遺伝研究の結果から、ナルコレプシーとL-カルニチンの関係に着目することになった。このように遺伝研究を新規治療法にまで貢献できたことは大きな成果であると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでにゲノムワイド関連解析、CNV解析及びSNP間の相互作用解析によって見出した疾患感受性の候補SNP及び候補領域に関しては、独立の新規サンプルセットを用いて再度関連解析を行う。これにより偽陽性の結果を排除でき、信頼性の高い結果を得ることが可能となる。また、統計学的な検出力を向上させるためにも、患者のDNAサンプル収集は今後も継続する。ナルコレプシー患者のDNAサンプルに関しては、350例を目標とする。 これまで測定したアシルカルニチンの結果は、炭素鎖の長さを区別せずにトータルのアシルカルニチンを測定した結果である。そこで、今後はアシルカルニチンの各炭素鎖の測定を行い、どの炭素鎖のアシルカルニチンがナルコレプシーに影響を与えているか検討する。さらに、ナルコレプシーの詳細な臨床情報を記録していることから、より病態に迫る解析を実施する予定である。本研究は東京都医学総合研究所及び財団法人神経研究所の本多真医師と協力して行い、適切な評価を行うようにする。
|