研究課題/領域番号 |
23689022
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮川 卓 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20512263)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ゲノム / 遺伝学 / ゲノムワイド関連解析 / ナルコレプシー / 睡眠障害 / カルニチン / 脂肪酸代謝 / Copy number variation |
研究概要 |
既に同定したナルコレプシーの感受性遺伝子以外にも、ナルコレプシーと関連する遺伝子があると考えられる。これまでに、日本人のナルコレプシー患者から採取したDNAサンプル約400例及び健常者DNAサンプル約1,600例を用いたゲノムワイド関連解析を行い、疾患感受性の候補SNP(Single nucleotide polymorphism)を選択した。この候補SNPに対して、独立の新規サンプルセットを用いた関連解析(再現性研究)を行うことが重要となる。そのため、これまでに収集した新規ナルコレプシー患者のDNAサンプル(250例)を用いて、再現性研究を実施した。その結果、幾つかのSNPにおいて再現性が確認された。現在、それらSNPに対する機能解析を実施している。また、ナルコレプシーのゲノムワイド関連解析の際に用いた健常者コントロールのデータは、他の疾患のゲノムワイド関連解析にも用いることで、多くの研究に貢献している。 ナルコレプシーの病態と脂肪酸β酸化との関係を解明する研究に関しては、これまでの研究結果から、ナルコレプシーにおける脂肪酸β酸化(特にカルニチンシャトル)の異常を想定している。カルニチンシャトルを促進させる働きのあるL-カルニチンをナルコレプシー患者に経口投与した結果、治療効果がある可能性を示すデータを得た。さらに、アシルカルニチンの各炭素鎖の測定を行い、どの炭素鎖のアシルカルニチンがナルコレプシーに影響を与えているか検討した結果、ナルコレプシー患者において長鎖アシルカルニチン値が有意に低下していることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナルコレプシーの感受性候補SNPに対して、再現性研究として独立の新規サンプルセットを用いた関連解析(ナルコレプシー患者250例)を予定通り実施し、幾つかのSNPにおいて再現性を確認することができた。平成25年度に再現性研究を行うことを可能にしたのは、ナルコレプシー患者のDNAサンプルを順調に収集したことが大きな要因である。決して一般的ではない疾患であるナルコレプシーのDNAサンプル収集は、容易ではなかった。しかし、今回、全国の医療機関、研究機関との共同研究によるDNAサンプル収集体制を構築することにより、この問題に対処することができた。 ナルコレプシーと脂肪酸β酸化との関連に関しては、CPT1B遺伝子近傍のSNPとナルコレプシーの関係から本研究はスタートした。これまでの進捗として、1.ナルコレプシー患者におけるアシルカルニチンの異常低値、2.ナルコレプシー患者へのL-カルニチン投与による症状及びアシルカルニチン値の改善、3.アシルカルニチンの中でも特に長鎖アシルカルニチンがナルコレプシー患者群で低値を示す(つまりCPT1の機能低下が認められる)ことがわかってきた。ナルコレプシーの病態にどの分子が影響を与えているか、順調に絞ることができていると考えている。また遺伝研究の結果を、病態の解明に貢献できたことは大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
ナルコレプシーのゲノムワイド関連解析及び再現性研究で有意な関連を示したSNPに関しては、近傍遺伝子にどのような影響を与えているか機能解析を実施する。これまでに、ナルコレプシーだけでなく、その他の過眠症(主に真性過眠症)のゲノムワイド関連解析も実施しているため、その再現性研究も行う予定である。ナルコレプシーとその他の過眠症が遺伝的に共通した感受性要因があるか、SNPデータ等を用いて解析を行う。これらはSNPの単点解析となるが、ゲノムワイド関連解析のデータを用いれば、SNP間相互作用も実施可能となるため、積極的に実施していきたい。 ナルコレプシー患者において、長鎖アシルカルニチンが低値を示すことがわかってきた。現在、ナルコレプシーの詳細な臨床情報を記録していることから、長鎖アシルカルニチンとその臨床情報との比較検討を実施する。ここに遺伝情報を含めた解析を行うことで、よりナルコレプシーの病態に迫ることができると考えている。また、真性過眠症も長鎖アシルカルニチンが低値を示すこともわかってきたため、上記と同様の解析を実施する予定である。真性過眠症はナルコレプシー以上にその病態がわかっていないため、真性過眠症の病態解明に貢献できるものと期待している。これらの結果は、今後の新規治療法にも応用可能である。特に長鎖アシルカルニチン値を上昇させる働きのある薬剤は、過眠症の治療にも用いることができるか検討したい。
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