研究課題/領域番号 |
23689023
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
伊東 史子 東京薬科大学, 生命科学部, 准教授 (70502582)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2014-03-31
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キーワード | TGF-β / 血管新生 / 遺伝子改変マウス / リンパ管 / 腫瘍血管新生 / 腫瘍リンパ管新生 / 低酸素 |
研究概要 |
血管新生は個体の発生や恒常性維持だけでなく、がん細胞の増殖にも必要な過程である。がんの悪性化においてTGF-βは腫瘍転移だけでなく血管新生を制御して悪性化に関与することが知られている。TGF-βシグナル分子の遺伝子改変マウスの解析から、TGF-βは血管を形成する血管内皮細胞や血管平滑筋細胞の増殖・分化を制御することが示されたが、これらの遺伝子改変マウスでは血管新生不全により胎生10日目前後に致死となりそれ以後の解析は不可能であった。またリンパ管新生におけるTGF-βシグナルの役割の詳細については不明な点が多い。 そこで、タモキシフェン誘導により血管内皮細胞またはリンパ管内皮細胞特異的に遺伝子を欠損させるマウス、TβRII; Pdgfb-icreER(血管)、TβRII; Prox1-creER(リンパ管)マウスを作製・解析した。特に腫瘍が誘導する血管リンパ管について解析するために、LLCまたはB16メラノーマを移植した腫瘍モデルにて解析した。内皮細胞においてTGF-βシグナルを欠損させると、腫瘍が誘導する血管・リンパ管の動的制御が変動しており、現在このメカニズムについて詳細に検討している。 また、がん微小環境におけるTGF-βシグナルの役割についても検討したところ、短時間刺激ではTGF-βシグナルが減少したが、長期的な刺激においてはSmadのリン酸化レベルの低下にも関わらずTGF-βシグナルが増強していた。このメカニズムの詳細についても検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血管新生におけるTGF-βALK5シグナルの分子メカニズムを解明するために、血管内皮細胞特異的にALK5シグナルの細胞内標的分子Smadを欠損させたマウス、Smad2F/F;Smad3-/-;Tie2-Cre (Smad2,3コンディショナルダブルKO (CDKO)) マウスを作製・解析した。その結果、Smad2/3CDKO胚は胎生13.5日までに全身からの出血で死亡した。CDKOマウス胚では血管新生は誘導されているが、その血管構造において血管平滑筋細胞のリクルートが減少していた。その原因として血管内皮細胞でのN-cadherinの発現量低下を確認し、TGF-βがSmad2/3を介してN-cadherinの発現と局在を制御して血管平滑筋細胞のリクルートを調節し、血管の成熟機構に関与していることを明らかにした。 成体解析も順調に推移しており、とくに腫瘍血管・リンパ管新生におけるTGF-βシグナルの役割について、新規の知見を見出している。
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今後の研究の推進方策 |
タモキシフェン誘導により血管内皮細胞またはリンパ管内皮細胞特異的に遺伝子を欠損させるマウス、TβRII; Pdgfb-icreER(血管)、TβRII; Prox1-creER(リンパ管)マウスをを利生した腫瘍モデルにおいて、TGF-βシグナルを欠損させた際、腫瘍転移に変化があることを見出した。腫瘍転移では、がん細胞に主眼を置いた研究が盛んであるが、本知見は血管側からの解析により腫瘍転移を抑制する可能性を示唆するものである。今後は腫瘍転移を抑制するメカニズムについて、分子レベルで詳細に検討していく。 また、低酸素環境におかれた細胞は、TGF-βシグナルに対する感受性が変化していることを見出した。今後は、このメカニズムについても深く検討する予定であり、特に転移におけるTGF-βシグナルの役割について解明し、転移というプロセスをがん細胞側、血管側から明らかにしていく。
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