研究課題
平成24年度はこれまでに引き続きさまざまな寄生虫のタンデムリピート(TR)蛋白についてその抗原性の解析を行った。結果、やはり寄生虫種に関わらずTR蛋白の抗原性が確認され、そのいくつかについては血清学的診断用抗原としての有用性も示唆された。次に、TR蛋白が強い抗原性を発揮するメカニズムについて、リーシュマニア原虫感染マウスモデルを用いて解析を行った。申請者はこれまでにリーシュマニア原虫感染時においてリピート抗原に対する抗体反応は非リピート抗原に対するものと異なることを示してきたが、本年度はリーシュマニア原虫感染時に産生される抗TR抗体について詳細に解析した。感染マウスは高IgG血症を呈するなど過度なB細胞の活性化がみられた。サブクラス解析の結果、血清中で増加するIgGの主なものはIgG1であり、これまでの報告にあるようにTh2の活性化が関与すると考えられた。その一方、今回新たにIgG3の顕著な増加も明らかとなった。IgG3の産生は一般的に蛋白抗原ではないが複数の同一エピトープによる架橋を通したB細胞活性化能を持つ抗原としてT-independent 2(TI-2)抗原に対してのものが特徴的である。本研究では、蛋白性抗原であるTR抗原に対してもTI-2様の抗体産生が起こっていることが初めて明らかとなった。実際に組換え抗体を用いたELISAにより、IgG3抗体の産生は非リピート抗原と比較してリピート抗原に対して強く誘導されており、複数の同一エピトープを持つ抗原ならではのB細胞活性化が起こっていることが示唆された。
3: やや遅れている
当該年度に実験動物施設に障害が生じたため飼育できる頭数に限りが出てしまった。そのため、遺伝子組換え動物を用いた感染実験など当初計画した通りの動物実験を行うことが出来なかった。
本年度の研究を通して、Leishmania donovani感染時に誘導される抗体産生はpolyclonalなものではなく抗原特異的であること、そしてその中でもTR抗原に対する抗体産生が非リピート抗原に対する蛋白よりも早期に誘導されることが分かった。また、IgGサブクラスの結果も合わせて、TR抗原に対する抗体産生にはユニークなメカニズムの存在が示唆される。今後は、抗TR抗体がより優位に産生される時期において二次リンパ機関として免疫応答に重要な役割を果たす脾臓に特に焦点を置き、①感染によって引き起こされる脾臓の腫大に関与する細胞群の同定し、また②脾臓B細胞がどのようなサイトカインやB細胞活性化因子などを産生しているか解析することによりTR抗原にユニークなB細胞活性化機構について明らかにする。また、in vitroにおいて反復数の異なる組換えTR蛋白を用いてB細胞活性化能の比較および活性化経路の解析をマイクロアレイ等の網羅的解析手法を用いて行うことにより、TR抗原に特異的なB細胞活性化の鍵となるエフェクター分子の同定を試みる。さらに、それら感染マウスにおいてエフェクター分子を中和することにより原虫の増殖および脾腫などの病態に与える影響について検討する。これら網羅的解析を組み合わせることにより、リーシュマニア原虫が哺乳宿主への適応進化においてなぜ、どのようにTR抗原を獲得してきたかについて明らかにする。
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