研究課題
本年度は、1)ClqによるWntシグナル活性化メカニズムの解明2)ClqによるWntシグナル活性化が老化表現型として出現する骨格筋再生能低下に与える影響の解明。についてさらに詳細な検討を行ない、Cell誌に受理された。具体的には、1-A)補体ClqはClr,Clsと複合体を形成(Cl複合体)、Wntシグナルの共受容体であるLRP5/6の細胞外ドメインを切断することにより細胞内にシグナルを伝達すること。1-B)LRP6の細胞外ドメイン切断断片が血中に観察され、加齢に伴い増加すること。2-A)ClqによるWntシグナル活性化は若年マウスの骨格筋障害後の再生を低下させること。2-B)ClqによるWntシグナル活性化をClr,Clsの内因性インヒビターであるCl-INH、Clsに対する中和抗体を用いて抑制することで老齢マウスの骨格筋障害後の再生能を回復させること。を見出した。また、中枢系メラノコルチンシステム系の変異により肥満と耐糖能低下の表現型を示すAyマウス(C57BL/6バックグラウンド)とClqノックアウトマウスを交配し、得られたマウスに高脂肪食を負荷し糖尿病を誘発したところ、Clqノックアウトマウスでは耐糖能の低下がおこらず、Clqにより惹起されるシグナルが糖尿病発症において促進的な役割を果たしていることが示唆された。ところが、当初の予想と異なり、脂肪組織における遺伝子発現はClqノックアウトマウスでも変化がなく、脂肪組織以外の組織にClqが作用している可能性が示唆された。また、老齢マウスにおける老化促進の表現型には、幹細胞の変化(骨格筋の場合、衛生細胞)ではなく、間質細胞の増殖および活性化の結果起こる「線維化」がより重要な役割を果たしていることが考えられた。Clqコンディショナルノックアウトマウスの作成に成功した。
2: おおむね順調に進展している
老化および糖尿病におけるClq誘導性Wntシグナル活性化が果たす意義を解明するためには、ClqがどのようにしてWntシグナルを活性化するか、さらに老化および糖尿病においてClqがどの組織・細胞にどのような病理的変化を引き起こしているかを明らかにすることが重要である。我々は本年度、糖尿病および老化においてClqが促進的に作用していることを明らかにしたが、その作用点として、糖尿病の場合は脂肪以外の臓器、老化においては線維化が重要な役割を果たしていることを見出した。さらに我々はClq誘導性Wntシグナル活性化の詳細なメカニズムを完全に明らかにした。メカニズムを明らかにすることで、Clq誘導性Wntシグナル活性化をより特異的に阻害できる経路を探索することができると考えられる。また、来年度以降の方針を決定づける研究がされたことから、現在の達成度は概ね順調に進展しているものと考えている。
計画当初では老化における幹細胞、糖尿病における脂肪組織に対してClq誘導性Wntシグナルがどのような意義を果たしているか検討予定であったが、老化については線維化、糖尿病については脂肪組織以外(経口グルコース負荷テストの結果からは肝臓が最も疑わしい)でClqが何かしらの役割を果たしている可能性が示唆される。線維化は老化に伴って様々な組織で観察される現象であるが、加齢に伴い線維化が増えるメカニズムについては明らかになっていない。今後は老化における線維化がどのようなメカニズムで起こり、Clq誘導性Wntシグナル活性化のもつ線維化促進作用は、老化や老化関連疾患においてどの程度普遍性のある的なものなのかについて検討する。近年、炎症、特に脂肪組織における炎症が糖尿病において果たす役割に注目が集まっているが、耐糖能異常に対し抵抗性であるClqノックアウトマウスにおいて脂肪組織の変化は認められなかった。元来、糖尿病研究はグルコース調節器官としての膵臓(膵島)、糖新生・貯蔵器官としての肝臓の異常における研究が多く行なわれてきており、Wntシグナルの異常活性化がこれら臓器にもたらす作用について詳細な検討を加える予定である。
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Hypertension
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doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.111.175208
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http://www.cvrm.med.osaka-u.ac.jp/