研究概要 |
ポリコーム群(PcG)タンパクは、ヒストン修飾などのエピジェネティック修飾を介して、標的遺伝子を負に制御する。申請者らはこれまでに、正常肝幹細胞および肝癌幹細胞の双方の自己複製制御において、PcGタンパクが中心的役割を果たすことを明らかにしてきた(Gastroneterology, 133;937, 2007, Chiba et al, J Hepatol, 52;854, 2010, Cancer Res, 68;7742, 2008)。中でも、polycomb repressive complex (PRC2)の中心的構成分子であるEZH2は、ヒストンH3K27メチル化酵素とし機能し、標的遺伝子の強固な転写抑制の起点となるが、申請者らは、レンチウイルスベクターや低分子化合物3-deazaneplanocin A (DZNep)によるEZH2の機能阻害を行うことで、肝癌幹細胞が分化傾向を示し、造腫瘍活性が低下することを確認し、DZNepの癌幹細胞特異的治療薬としての可能性を見出した (Chiba et al, Int J Cancer, 130;2557-67, 2012)。 また、正常な肝幹細胞において、chromatin immunoprecipitation-sequencing (ChIP-seq)法によるヒストン修飾(転写活性化に働くトリメチル化ヒストンH3K4(H3K4me3)と転写抑制に働くトリメチル化ヒストンH3K27(H3K27me3))の網羅的解析を行い、肝幹細胞の分化制御機構を検討した。ChIP-seqの結果、H3K4me3とH3K27me3が共存するbivalent geneが562個抽出され、その一部で、ES細胞や造血幹細胞において報告されているものとの重複がみとめられた。GO解析では、増殖抑制、細胞分化に関与する遺伝子群がenrichされていた。またマイクロアレイ解析との照合の結果、これらのbivalent geneのうち、肝細胞分化、胆管細胞分化、肝細胞/胆管細胞双方の分化の際に、それぞれ128、115、72個の遺伝子の脱抑制がみとめられた。 これらの遺伝子の中には、肝癌においても重要な役割を果たすことが報告されているものが含まれており、今後その機能解析を進める予定である。
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