研究課題
心不全の発症、進行に慢性炎症が重要な役割を果たしていることが注目されているが、その発生機序については全く不明であった。私はこれまでに不全心において変性ミトコンドリアの蓄積、その分解が亢進していることを見出したが、ミトコンドリアの構成分子であるDNAと電子伝達系分子が構造上バクテリアと共通の特徴を有していることから、ミトコンドリアの分解産物が自然免疫系を活性化する可能性があると考えた。すなわち、心筋の慢性炎症の原因として変性ミトコンドリアの分解異常が中心的な役割を果たしている可能性が示唆される。本研究では、この仮説について検討し、さらにその分解分子機構を解明することにより慢性炎症の制御をおこない、新しい心不全治療として応用することを目的として研究を開始した。H23年度には心不全発症過程におけるミトコンドリアDNAの役割をマウス心不全モデルを用いて解明するとともに、ミトコンドリア分解に関与するオートファジーが心筋の炎症制御に重要な役割を果たしていることを見出した。平成24年度は、心不全の発症過程におけるミトコンドリアDNAの役割を前向きに証明するために、ミトコンドリアDNAの分解に関わる責任分子であるDNase IIに着目し、その心筋特異的欠損マウスを用いてミトコンドリアDNAの分解不良が心筋の著明な炎症、心不全の発症に関与していることを明らかにした。また、ミトコンドリアDNAが自然免疫系のToll-like receptor 9(TLR9)が炎症反応を惹起していることも明らかにした。また、TLR9欠損マウスでは心不全発症が抑制されること、さらにはTLR9を阻害する核酸を投与することによりマウスの心不全発症を抑制できることを明らかにし、ミトコンドリアDNA→TLR9の経路が新たな心不全治療の有望な標的であることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
研究開始当初の仮説に合致した結果が順調に得られており、新たな治療法開発につながりうる知見が得られているため。
マウスで得られた知見をもとに、新たな心不全治療法の開発につなげる研究を推進する。具体的には、他の心不全モデルにおけるDNase II, TLR9、ミトコンドリアDNAの関与の検討、TLR9阻害による心不全治療効果の検討等を実施する。さらに、ミトコンドリアDNA分解調節にかかわる分子機構の同定を試み、その分子機構の調整が心不全治療に応用可能かどうかについても検討を進める。
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