研究概要 |
本研究では、呼吸器の発生・再生の基本原理を解明するため、気道上皮組織における線毛細胞、クララ細胞、神経内分泌細胞(NEC)の分化プログラム、数量的バランス制御機構の解明を行なっている。特に近距離細胞間の情報伝達経路であるNotchシグナルの役割に注目し、各気道領域によって異なる数量的バランスで特殊化細胞が出現し、維持されるメカニズムの解明を試みている。 昨年度までの研究により、発生中の気道上皮においてNotch2が線毛細胞分化を抑制してクララ細胞分化を誘導すること、さらにNotch1,2,3が共役してNECクラスターのサイズを制御していることをマウス個体で明らかにした。また胎児期のNECを被っている新規のSSEA-1陽性のSPNC細胞を発見し、この細胞種がNECクラスターのサイズ制御に機能する可能性を見いだした(論文投稿中)。本年度は、SPNC細胞の細胞系譜追跡と、この細胞の選択的な除去の両方ができる遺伝子改変マウスの作出を試みた。しかし、利用する事を計画していた遺伝子FUT7がSPNC細胞以外にも発現してしまい、効率的にSPNC細胞をターゲットする事ができなかった。研究協力者からの私信により別の遺伝子UPK3aがSPNC細胞だけで発現している事を知り、自らの手で確認をした。そこでUPK3aの発現制御配列を用いて目的の遺伝子改変マウスを作出する事にした。現在も作出過程にある。 一方、気道上皮細胞の初代培養系を使った線毛細胞分化誘導系を利用して、線毛細胞の分化プログラムの解明に取り組んだ。理化学研究所オミックス領域の協力のもと、線毛細胞の分化過程を次世代シークエンサーを用いて時系列的にトランスクリプトーム解析した。解析は順調だが、次世代シークエンサーから得られたデータは膨大であり、現在も理化学研究所オミックス領域の研究協力により少しずつ解析されている。
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