研究課題
本研究は、有用なα線放出核種211Atの広範囲での利用の実用化を目指し、 211Rn/211Atジェネレータの製造および211Atを使用した担がんマウスの治療実験を行うことを最終目標としている。今年度の本研究では、医学利用を前提とした211Atの抗体への標識方法および211At標識抗体のマウスにおける体内動態について検討した。通常抗体へのハロゲン標識を行う場合、アミノ酸のチロシン残基に直接標識する方法がとられるが、211Atはこの方法では安定に標識することが出来ないため、リジン残基上にスズ誘導体(ATE)を介して標識を行う。この場合、予めATEに211At標識し、次に標識された211At-ATEを抗体に標識する。この方法は、抗体中のリジン残基のみに211Atが標識され、体内での代謝を受けない利点を持つが、一方で時間がかかる操作を含むことや比放射能が低くなるという欠点がある。そこで本方法では、スズ誘導体を抗体に予め複合化させ、その後に211Atを標識する方法を行った。実験はヨーテボリ大学のSture Lindegren准教授の下で行い、10MBqの211Atを100ugのATE複合化抗体と反応させた。モノクローナル抗体にはリツキシマブを用いた。標識では放射化学的収率70-80%、また放射化学的純度は95%以上であった。次に金沢大学で211At標識抗体をマウスに尾静脈投与し体内分布を検討した。投与後30分、1時間、3時間で解剖し、血液、腎臓、肝臓、胃、腸、甲状腺を採取し放射能を測定したところ、ATEを予め抗体に複合化させた場合の211At標識抗体の薬物動態は従来用いられている211At標識抗体と同様の体内分布を示した。以上の結果から予めATE誘導体を抗体に複合化させた方法を用いても211Atを効率的に標識できることが示された。
3: やや遅れている
今年度は211At迅速標識法の開発という目的を達成はしたが、一方で加速器を用いた211Rnの製造が依然定常的に行うことが出来ないため、現在の達成度を③やや遅れている、と判断した。
本研究課題のα線放出核種211Rnの製造には加速器が必要である。そこで日本原子力研究開発機構(原研機構)のタンデム型加速器での実験を引き続いて行うことができる環境を整備する。具体的には以下のとおりとする。1)加速器を用いた211Rnの製造:製造には日本原子力研究開発機構のタンデム加速器を利用する。実験では、209Bi(7Li, 5n)211Rn反応を利用して211Rnを製造する。2)溶媒抽出系を用いた211Rn/211Atジェネレータの開発:製造した211Rnを溶媒抽出系で有機相に捕集するため、最適有機溶媒の選定を行う。抽出後に生成する211Atの回収するための溶媒の選定を行う。3) 211Rn/211At由来211Atの標識薬剤の作成と動物実験による薬物動態評価:ジェネレータからミルキングして得た211Atの標識方法を検討する。標識薬剤が既存の211At標識薬剤と同一であることを示すために、マウスを用いた薬物動態評価を行う。
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10.2174/092986712801215865
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