研究概要 |
ゲノム全体の低メチル化(=LINE-1の低メチル化)は、癌において重要なエピジェネティックな変化であるが、食道癌におけるLINE-1メチル化の意義を検討することが本研究の目的である。まず、Pyrosequencing technologyにより、パラフィン包埋ブロックを用いて食道癌LINE-1メチル化レベルが正確に測定できるかを検討した。 Pyrosequenceは、bisulfite→PCR→Pyroという行程からなるが、それぞれ行程を5回ずつ独立して行うことにより、その再現性を評価した。bisuifite行程及びPyro行程の標準偏差は、それぞれ1.44-2.90、0.63-3.25と比較的低値であった。また、同一腫瘍から5枚の切片を作成することにより、同一腫瘍内のheterogeneityを評価したが、標準偏差は1.37-3.31であった。これらの結果から、食道癌パラフィンブロックから作成された代表切片を用いて、PyrosequenceによりLINE-1メチル化レベルを測定することの妥当性が示された。Pyrosequenceは多数のサンプルを迅速に測定することができ、臨床応用に非常に適したツールであることから、今回の結果は非常に意義があると考えられる。この結果を示した論文は、Ann Surg Oncol.に採択された。次に、このassayを用いて、食道癌217例のLINE-1メチル化レベルを測定した。食道癌のメチル化レベルは、正常上皮と比べて有意に低値であった(p<0.0001;N=50)。癌部におけるLINE-1メチル化レベルは、平均値64.5;中央値65.0;最小値24.8;最大値91.8であった。食道癌LINE-1低メチル化症例は、高メチル化症例に比べて有意に予後不良であった(log-rank p=0.0008;単変量リスク比=2.32,95%信頼区間1.38-3.84,p=0.0017;多変量リスク比=1.81,95%信頼区間1.06-3.05,p=0.031)。このことから、食道癌LINE-1メチル化レベルは、食道癌の予後予測因子となりうることが示された。食道癌は非常に予後の悪い疾患であるが、今回の結果は患者別の個別化治療に貢献できる可能性があり、非常に臨床的意義があると考えられる。この結果は、外科分野の一流誌であるAnnals of Surgeryに採択された。
|