研究課題
肺移植におけるドナー不足を解消する現実策として、マージナルドナー肺や心臓死ドナー肺といった「傷害を受けた、または潜在的に傷害のある可能性がある」ドナー肺の積極的な利用が重要である。このような、いわば「傷害のあるドナー肺」の安全な利用のためには、ドナー肺の質を移植前に客観的に評価する必要がある。そこで、申請者はこれまでの準備に基づき、小動物を用いた基礎実験を続ける傍ら、(1)大動物を用いた体外循環回路(EVLP)を用いて、「傷害のあるドナー肺」の機能を移植前に正確に評価するシステムを構築し、(2)EVLP中の薬剤投与など、肺傷害を軽減する手法を開発することで、「傷害のあるドナー肺を治療し、いわば蘇生させる」ことを検討する実験を行った。平成23年度は、イヌ傷害肺モデルの確立を行ったので、その結果に基づき、平成24年度は、DCDドナーモデルにおける、EVLPでの薬物治療の有効性を検討する実験を行った。DCDドナーモデルにおけるEVLPの再現性を十分に確認した後、これまで小動物EVLPや大動物肺移植実験で検討を行ってきたBeta-2 agonistを用いた大動物EVLP実験を行った。中間解析では、治療群において有意な肺保護効果を認めている。今後、肺組織などの検体を用いて、分子メカニズムなどを検討していくとともに、大動物肺移植実験も考慮している。さらに、DCDドナーモデルにおいての実臨床での課題である、心停止までの時間と肺障害についての検討の必要性が生じたため、平成24年度には、小動物を用いた実験を行い、心停止時間までがある一定以内であると、肺障害が増強しないことを示し得た。現在、小動物EVLPを用いて心停止時間の設定を綿密に行っており、設定完了後、小動物実験で再確認する予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度において、当初の予定通り、大動物における3種類の傷害肺モデル(脳死ドナー、マージナルドナー、DCDドナー)の確立を行い、モデルの再現性も確認した。また、大動物EVLPや肺移植を用いた実験を進め、肺機能の評価についても検討を始めることができた。その結果に基づき、平成24年度には、DCDドナーモデルにおける、EVLP中の薬物治療の可能性および有効性についても、検討を行うべく実験を開始することができた。まず、KCLを用いたDCDドナーモデルにおけるEVLPの再現性を十分に確認した後、これまで申請者らが、小動物EVLPや大動物肺移植実験で検討を行ってきたBeta-2 agonistを用いた大動物EVLP実験を行った。現在、コントロール群(n=4)、治療群(n=5)の実験が終了し、中間解析では、治療群において有意な肺保護効果を認めている。今後、肺組織などの検体を用いて、分子メカニズムなどを検討していく予定である。さらに、平成23年度中に、DCDドナーモデルにおいての実臨床での課題である、心停止までの時間と肺障害についての検討の必要性が生じたため、平成23年度末から24年度にかけて、小動物を用いた実験を行い、心停止時間までがある一定以内であると、肺障害が増強しないことを確認した。その後、小動物EVLPを用いて心停止時間の設定を綿密に行っており、設定完了後、小動物実験で再確認する予定である。この結果に基づき、平成25年度に、可能であれば、大動物でのEVLPおよび肺移植実験を行う予定である。
平成23年度、平成24年度で確立した肺傷害モデルおよびEVLPモデルを利用し、まず、DCDドナーモデルにおける、EVLPでの薬物治療の可能性および有効性を検討する実験を行う。具体的には、KCLを用いたDCDドナーモデルにおいて、EVLP中のBeta-2 agonist吸入による肺保護効果を、大動物EVLPを用いた実験系で確認する。現在、すでに実験は継続して行われており、中間解析の結果からはEVLP中の治療の有用性が確認できている。今後、予定実験数(n=5-6ずつ)を終了した後で、最終的な検討を行う。さらに、実験中に採取し保存している、血液、肺胞洗浄液、肺組織などの検体を用いて、分子メカニズムなどを検討していく予定である。並行して、EVLP後に肺移植を行う実験を行い、移植後の肺機能の評価を正確に行う予定である。また、平成23年度末から24年度にかけて、controlled DCDドナーにおける心停止までの時間と肺障害についての小動物を用いた実験を行ったが、その結果に基づき、平成25年度には、controlled DCDドナーにおける心停止までの時間の設定を割り振った、小動物EVLP実験を行う。これについても、実験中に適宜採取した血液や肺組織などの検体を詳細に検討することによって、分子メカニズムの解明に迫る予定である。なお、予定より早く研究成果が出るようであれば、平成25年度内に、controlled DCD donorにおける心停止までの時間による肺障害の検討という観点からも、上述の大動物EVLPおよび肺移植モデルを利用し検討を進めたい。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件)
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