これから日本が超高齢化社会を迎えるにあたり、寿命の延長を図るだけではなく生活の質を改善していくことは、本邦にとって非常に重要な課題である。耳鼻咽喉科領域において、生活の質を著しく低下させるものの例として、感音難聴・耳鳴りがある。突発性難聴は急激に発症する感音難聴を主訴とする疾患であり、多くの場合発症後に持続する耳鳴りを併発する。残念ながら突発性難聴の発症メカニズムは不明であり、標準治療とされているステロイドによる薬物治療の有効性も未だに不明である。厚生省研究班の報告によると、病院を受診し突発性難聴と診断された患者の数は、1993年には1万人あたり1.92人であったのが2001年には2.75人と大幅に増加している。そのため、突発性難聴に対する新しい治療法が切望されている。 申請者は、ヒト脳の機能的可塑性変化に注目し、突発性難聴に対して病側耳集中音響療法によるリハビリテーションを試みた。健康な耳に耳栓をして聞こえにくい状態にすることで、日常生活音の聴取を病側耳で行うよう促した。また、環境音を賦活するために音楽を使用し患者に聞いてもらった。その結果、病側耳集中音響療法とステロイド治療と組み合わせることで、ステロイド治療単独よりも良い聴力の回復を認めた。また、脳磁図を用いて音響療法を受けた突発性難聴患者の脳活動を記録したところ、発症時に認められた不適切な脳の機能的な可塑性変化が正常な方向に回復することがわかった。 また、耳鳴り患者に対して周波数除去音楽療法と経頭蓋直流電気刺激を組み合わせることで、耳鳴り症状の改善を試みた。しかしながら、経頭蓋直流電気刺激による有意な効果は、自覚的な耳鳴り症状の変化においても脳磁図によるヒト脳活動記録においても認められなかった。
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