研究課題/領域番号 |
23689071
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
武田 篤信 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40560313)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 炎症 / DAMP / TLR / 網膜色素上皮細胞 / マクロファージ |
研究概要 |
網膜下線維瘢痕下因子としてTLR2とTLR4に着目した。TLR2とTLR4は主にマクロファージに発現する受容体で、TLR2はグラム陽性菌の細胞壁構成成分ペプチドグリカンを認識し、TLR4はグラム陰性菌の細胞膜構成成分リポ多糖を認識する。一方、細胞の中に存在する物質が細胞が死んで細胞外に出ると、それらを危険信号としてTLR2とTLR4が認識し、炎症反応を引き起こすことが判ってきた。病原体由来ではない炎症を励起する内因性物質はDanger associated molecular patternsと総称され、その1つとしてHeat shock protein 70 (HSP70)等がある。実験的マウス網膜下線維瘢痕下モデルにおいて野生型マウス(WT)とTLR2またはTLR4欠損マウス(TLR2またはTLR4 KO)にそれぞれ線維瘢痕化を誘導するとWTに比しTLR2またはTLR4 KOでは有意に促進された。次にHSP70に着目した。WTに網膜下線維瘢痕下を誘導すると、HSP70が遺伝子または蛋白レベルでも発現が上昇していた。さらにWTに線維瘢痕下を誘導し基剤とHSP70をそれぞれ眼内に投与すると、HSP70投与群では基剤投与群と比し線維瘢痕化は有意に抑制された。HSP70の作用機序についてさらに検討した。HSP70投与群では炎症抑制性物質IL-10の発現が有意に上昇していた。免疫染色で線維瘢痕化誘導時に網膜色素上皮細胞(RPE)でTLR2とTLR4の発現が増強しておりIL-10の産生源としてRPEとマクロファージが考えられた。そこでin vitroで培養RPEをHSP70で刺激するとIL-10の発現が増強していた。ところがマクロファージをHSP70で刺激してもIL-10の発現変化がなかった。これらの結果からRPEが網膜下線維瘢痕化の制御に重要であることが判った(現在投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1年度はマクロファージから分泌される炎症性サイトカインIL-27がautocrineにマクロファージに作用し、マクロファージからの血管内皮増殖因子(Vascular endothelial growth factor A)発現抑制による脈絡膜血管新生抑制効果、第2年度は自然免疫に関わる受容体TLR2とTLR4が内因性物質Danger associated molecular patterns (DAMPs)の1つであるHSP70をリガンドとして網膜下線維瘢痕化を制御する機構を明らかにし、将来の治療への可能性を示してきた。当初はM1とM2の分化制御に着目していたが、この2年間の研究成果により眼内においてはマクロファージのM1またはM2への分化制御よりも、RPEとマクロファージとの相互作用の方が重要である可能性が判ってきた。すなわちRPEではその機能低下や上皮間葉移行(epithelial-to-mesenchymal transition: 以下EMT)による網膜下線維瘢痕化促進機構、それを制御するマクロファージの作用に焦点が移ってきている。昨年度から新規標的分子としてNmU及びその受容体の網膜下線維瘢痕化制御機構について実験を進めている。microarrayを用いた網羅的遺伝子発現解析については詳細な条件検討が必要であるため計画中のままであるが、その他の、炎症性サイトカインの発現やin vivoでの網膜下線維瘢痕化に関する実験は現在までに完了しつつあり、概ね目標は達成していると考えている。また、RPEのEMTを制御するマクロファージ分画としてM1やM2マクロファージ、または他のマクロファージ分画のどの分画が関与するかに関しても新規標的分子としてNmUを利用することで明らかになる可能性があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の研究結果でマクロファージとRPEの相互作用とくにRPEの上皮間葉移行(epithelial-to-mesenchymal transition: 以下EMT)による網膜下線維瘢痕化の促進機構に着目している。その過程で神経ペプチド・ニューロメジンU(以下NmU)によるEMT制御機構が判ってきた。NmUは代謝、炎症制御など多彩な作用が報告されている。NmUとその受容体2種類の局在をヒト正常及びAMD眼の組織標本を使用した免疫染色法による検討で、NmUが骨髄由来マクロファージから分泌され、網膜色素上皮細胞に発現しているNmU受容体を介し網膜下線維瘢痕化抑制に働く可能性がある。本年度の研究計画としては具体的にはNmU欠損マウスを用いたin vivoの実験でどのマクロファージ分画がNmUを分泌しているのか、またNmU受容体は2種類あり、網膜色素上皮細胞上に発現していることを明らかにしているが、どちらの受容体に作用し網膜下線維瘢痕化抑制作用があるのか、またその下流で活性化される細胞内情報伝達分子機構を明らかにする。また、NmUに作用に関する過去の報告ではIL-6を誘導することで炎症励起に働く、あるいは平滑筋細胞の収縮に関わることが報告されているが、IL-6の誘導とは無関係であり、NmUによりα-SMAの発現を抑制される結果が得られており、従来の結果とは異なる結果である。そのため、NmUと別のサイトカイン等の相互作用想定しており、RPEを用いたin vitroの培養系で研究を進めている。 さらにmicroarray(イルミナ社)などを用いて、マウス眼に網膜下線維瘢痕化誘導後に、コントロールマウスとNmU欠損マウスとの比較により、網羅的遺伝子発現解析を行い、NmUの下流で増減する遺伝子を同定する計画である。
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