申請者は臨床経験から、褥瘡など全身状態の悪化を背景にもつ難治性皮膚潰瘍の患者の多くは外科的侵襲に対する許容能が低いことを報告し、効率のよい保存的加療の必要性を強く感じてきた。広く一般にアクセシビリティの高いアプローチ方法を模索する中で、潰瘍局所の間葉系細胞からケラチノサイトへ直接転換を惹起することができれば革新的な治療となりうると考えるにいたり、本研究に取り組んできた。潰瘍局所に存在する細胞としては、さまざまな細胞が含まれるが、最も豊富に存在し、一般的なものとして皮膚線維芽細胞を採用し、マイクロアレイおよびカスケード、アップストリーム解析を用いてケラチノサイトと発現遺伝子の比較を行うことにより、直接転換を惹起する因子となりうる17の転写因子を候補として選択した。また、micro RNAの発現が細胞系譜の転換に寄与するという報告を受けて、micro RNAマイクロアレイを用いて、ケラチノサイト特異的に発現している8クラスター21種のmicro RNAと、線維芽細胞に特異的に発現している9種のmicro RNAを選択した。レンチウイルスベクターを用いて、ケラチノサイトに強く発現している転写因子、micro RNAの強制発現、および線維芽細胞に強く発現しているmicro RNAの発現を抑制することによって、皮膚線維芽細胞において、代表的なケラチノサイトマーカーであるサイトケラチン14および上皮カドヘリンを強発現し、選択培地内で増殖能を有する未分化なケラチノサイト類似の表現型を与えることに成功した。
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