研究概要 |
不死化したヒト歯根膜細胞から得られたクローンのキャラクタライゼーションによって、“多分化能を有する未分化な歯根膜幹細胞クローン”および“分化能が著しく低い歯根膜細胞クローン”が存在することが明らかになったため、この2つの特徴の異なる歯根膜細胞クローン間の遺伝子発現量の差をマイクロアレイ法を用いて解析した。“多分化能を有する未分化な歯根膜幹細胞クローン”において発現の高い遺伝子群からSemaphorin3A(Sema3A)に注目して、その発現ならびに機能について検討した。その結果、マウス歯胚の発生過程でSema3Aは歯根膜組織の由来組織である歯小嚢に限局して発現しており、ラット成熟歯根膜組織においてもその一部に発現していた。また、in virtoではヒト歯髄細胞と比較してヒト歯根膜細胞におけるSema3Aの発現が有意に高く、多分化能を有する歯根膜細胞クローンにおいて最もその発現が高かった。ヒト歯根膜細胞クローンはSema3AのレセプターであるNRP1, PlexinAをともに発現していた。この結果から、Sema3Aが歯根膜幹細胞において重要な因子である可能性が考えられたため、次にSema3Aの機能を検討した。Sema3A遺伝子を、分化能を示さないヒト不死化歯根膜細胞クローン(2-52)に遺伝子導入し、その多分化能を検討したところ、骨芽細胞分化ならびに脂肪細胞分化誘導がともに促進した。また、間葉系幹細胞マーカー(CD73、CD90、CD105、CD146およびCD166)の発現ならびにES細胞マーカー(Nanog, Oct4およびE-cadherin)の発現が上昇し、細胞増殖能も上昇していた。以上の結果から、Sema3Aは歯根膜幹細胞誘導に重要な役割をになっている因子であることが示唆され、今後の幹細胞を用いた歯周組織再生における有用性が期待された。
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