研究概要 |
不死化したヒト歯根膜細胞から得られたクローンのキャラクタライゼーションによって、“多分化能を有する未分化な歯根膜幹細胞クローン”および“分化能が著しく低い歯根膜細胞クローン”が存在することが明らかになったため、この2つの特徴の異なる歯根膜細胞クローン間の遺伝子発現量の差をマイクロアレイ法を用いて解析した。“多分化能を有する未分化な歯根膜幹細胞クローン”において発現の高い遺伝子群からSema3Aが歯根膜幹細胞の維持、誘導に重要であることを明らかにしたが、一方でnon-canonical Wnt signalingに関連する因子も同定された。そこでリガンドであるWnt5aに注目して、その発現ならびに機能について検討した。その結果、Wnt5aはラット歯髄組織や歯槽骨組織においてはその発現が殆ど認められなかったにもかかわらず、歯根膜組織において強発現していた。また、in virtoのヒト歯根膜細胞においてWnt5aおよびそのレセプターのRor2とFzdsを発現していた。ラット歯根膜組織におけるWnt5aの発現は咬合圧を除去するとその発現が低下し、さらにin vitroで歯根膜細胞にストレッチをかけるとWnt5aおよびそのレセプターの発現が上昇した。Wnt5aは歯根膜細胞の増殖能および走化性を上昇し、細胞内ではERK, JNKおよびAktのリン酸化が亢進していた。Wnt5aは歯根膜細胞の石灰化を抑制する一方で、periostin, fibrillin-1の発現を上昇し、さらにコラーゲン線維形成を促進した。Wnt5a siRNA、periostin siRNAおよびTGF-beta中和抗体を用いた実験により、歯根膜細胞は、Wnt5a刺激によりTGF-betaおよびperiostinの発現を介してコラーゲン線維形成を促進することが明らかになった。以上の結果より、Wnt5aは歯根膜組織の恒常性の維持に重要な役割を有する可能性が示唆された。
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