研究課題/領域番号 |
23700003
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
内沢 啓 東北大学, 情報科学研究科, 助教 (90510248)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 情報基礎 / 生体生命情報 / 回路計算量 / しきい値回路 / 神経回路網 |
研究概要 |
本年度は,主に視覚に関する情報処理タスクに着目し,計算過程で生じるパルスの発生量が,しきい値回路の構造や計算能力にどのような影響を与えるのかについて研究を行った.特に,タスク処理を実現するパルス発生量及び素子数の少ないしきい値回路の具体的な構成を目指し,研究を展開した.その結果,主に以下に示す2つの成果を得た.1. 大部分の情報処理タスクにおいて,パルス発生量を回路の規模に依存しない定数にまで小さく抑えるためには,回路の並列計算時間を回路の規模のほぼ線形にまで大きくせざるをえないことを数学的に厳密に証明した.即ち,パルス発生量の少ない回路を設計するためには,回路の並列計算時間を犠牲にせざるをえないことが明らかになった.またその副次的な成果として,パルス発生量を小さく抑えるために過去の研究の中で開発され,利用されてきたしきい値回路のある設計手法が,多くの情報処理タスクに対して適用できないことを示した.この既存の設計手法においては,決定木の一種である「線形決定木」を活用し,目的の情報処理タスクを実現する内部ノード数の少ない線形決定木を設計することが,設計手法の非常に重要な部分を占めている.しかし本結果では,この内部ノード数の少ない線形決定木の計算能力には限界があり,多くの情報処理タスクを原理的に実現できないことを厳密に示した.2. 剰余関数を計算するしきい値回路のパルス発生量と回路を構成する素子のファンインの間にトレードオフの関係があることを厳密に証明した.即ち,パルス発生量を小さく抑えたしきい値回路の設計を行うためには,大きなファンインが必要であり,また,ファンインを小さく抑えたしきい値回路を設計するためには,大きなパルス発生量が必要となる.本結果は,パルス発生量とファンインの関係を明らかにした初めての結果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は,視覚に関する情報処理タスクに着目し,タスク処理を実現するパルス発生量及び素子数の少ないしきい値回路の構成を目指した.その結果,目標とするしきい値回路の設計にあたって基礎的かつ有用な指針となる2つの成果を得ることができた.具体的には,パルス発生量及び素子数の少ない回路の設計を与えるためには,その回路の並列計算時間は大きくなければならず,さらに回路を構成する素子のファンインもまた大きなものでなければならないことが数学的に厳密に示された.これらの成果は次年度以降に回路の設計を行う上で非常に有用な知見であり,目標としているパルス発生量の少ない回路の設計に向けて,大きな進展が得られたと言える.またこの成果は,特定の情報処理タスクに依る結果ではなく,多くの情報処理タスクに対しても成り立つ一般的な知見であることから,次年度に取り組むより複雑な情報処理タスクを実現するしきい値回路の設計においても,有用となる考えられる. また,パルス発生量の少ないしきい値回路を設計するために過去に提案された開発手法に対して,その手法の限界点を明らかにできたことも,新しい回路設計手法の開発に向けた大きな一歩と言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,引き続き視覚に関する情報処理タスクを実現するパルス発生量及び素子数の少ないしきい値回路の設計を継続して行う.設計に当たっては,平成23年度に得られたパルス発生量,並列計算時間,ファンインに係る知見を活用する.新しい回路の設計に成功した場合は,研究計画調書に基づいて,視覚,聴覚に係る,より複雑な情報処理タスクに着目し,同様の手法で回路の設計に取り組む.またこれらの回路設計と合わせて,本年度に得た回路設計に係る基礎的な知見に関しても引き続き研究を行い,パルス発生量の少ない回路のを設計するために有用となる,より一般的な設計指針を得ることを目指す. また,視覚,聴覚に係る情報処理タスクを実現する回路の設計を通して,今年度に限界があることが示された既存の回路設計手法の枠組みによらない,新しい回路設計手法の開発にも従事する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も研究計画調書に基づいて予算を執行する.具体的には,年度前半における資料収集,及び年度全体における研究の成果発表に用いる旅費として主に予算を執行し,さらに通信費,及び国際会議等での成果発表に伴う会議登録料として予算を執行する. 次年度使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成24年度請求額とあわせ,次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である.
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