研究課題/領域番号 |
23700014
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
藤原 洋志 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80434893)
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キーワード | アルゴリズム / 最適化 / オンライン最適化 |
研究概要 |
(1) スキーレンタル問題は、将来何度スキーに行くか分からない状況下で、スキー板のレンタル・購入の選択によりコストを最小化する問題である。その拡張の一つである多状態スキーレンタル問題は、「レンタル」・「購入」以外の中間オプションを許す問題であり、例えば省電力など多くの実世界の問題を含んだ汎用的な枠組みである。本問題において、プレーヤーの戦略はオプション間の遷移を表す決定木とみなすことができ、最適戦略の導出は「競合比」を目的関数とする木生成問題である。 既存結果として、Damaschke により、任意の状態数を許す場合について競合比の下界 3.61 が与えられていた。我々はその導出手法に着目し、状態数をパラメータで指定し、プレーヤーにとり都合の悪いインスタンスを構成できることを見抜いた。そして初めて状態数が5以上の個々の場合についての競合比の下界を証明した。この結果を国際会議 ISORA2013 および雑誌 Journal of Combinatorial Optimization にて発表した。 (2) ビンパッキング問題は、均一の容量のなるべく少ない数のビンを用い、与えられるアイテム全てを詰める問題である。理論計算機科学における重要な話題であるだけでなく幅広い応用がある。とりわけ、各ビンに詰められるアイテム数上限があらかじめ制限されている問題は、多くの関心を集めている。 我々は、各ビンのアイテム数上限を2とする問題について、既存の競合比下界を改良した。具体的には、いかなる戦略を用いても、競合比が 1.42764 以上となるアイテムの例を構成できることを証明した。またアイテム数上限を入力としたスキームを設計し、アイテム数上限が 4, 5 および10から41までの場合について既存の競合比下界を改良した。これらの結果を国際会議 COCOON2013 にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 我々は多状態スキーレンタル問題を取り上げ、中でも競合比の下界に着目した。そして既存結果である Damaschke の手法を拡張し、状態数を入力とするスキームを設計した。そして、状態数が5以上の場合についての競合比の下界を初めて証明した。 状態数が任意の場合の競合比の上下界が 3.61 から 4 の間であることは知られていたが、真の上下界は永く未解決である。これについて、 Damaschke は真の値は 4 である、と予想している。我々の結果はこの予想の反証には至っていないものの、反証の土台となる有力な証拠を与えた。それは、我々のスキームに対して状態数を3および4と設定すると、それぞれの場合の真の上下界と一致するという事実である。この事実を拡張し、任意の状態数の設定に対しても我々のスキームが真の上下界を与えること、すなわち任意の場合の真の上下界が 3.61 であることが我々の予想である。 (2) 我々はビンパッキング問題に対して、各ビンのアイテム数上限が 2, 4, 5 および10から41までの場合について既存の競合比下界を改良した。 まずアイテム数上限が 2 の場合の考察については、最終的解決、つまり競合比の真の上下界の同定まであと一歩というところまで到達したといっていい。我々が証明したのは下界 1.42764 だが、これまで知られている最良の上界が Babel らの論文による 1.44721 であり、ギャップがかなり小さくなってきた。なおこのアイテム数上限が 2 の場合は、個数最大マッチング問題に帰着できるなど、他の最適化問題とも関連が深く、それゆえ競合比上下界の解明の意義は大きい。さらに、アイテム数上限が 3 以上の場合の考察については、今後の拡張性に富んだスキームを提供したという点を強調する。多くの研究者の参加を促し、さらなる改良を期待したい。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 多状態スキーレンタル問題で状態数を任意に固定した場合について、競合比の上下界の解明を行う。我々の競合比下界導出スキームにおいて、状態数を3や4にすると、競合比上界と一致する結果になることについてはすでに述べた。任意の状態数についても、我々のスキームが競合比上界と一致する結果を導くと予想している。そこで、状態数を5以上とした場合のそれぞれの競合比上界を得て、我々の予想が正しいことを裏付ける。ただし我々のスキームから直接何らかの上界を導出することは難しい。状態数を3や4の場合の上界は数理計画問題に基づいた証明であるから、これを参考にしつつ研究を行う。すでに、国際会議 ISORA2013 の発表の詳細を詰め整理したものを学術雑誌に投稿済みであり、掲載料を本助成金から支出する。また競合比上界についての結果も、まず国際会議で発表を行いその後学術雑誌に掲載する。 (2) 我々は一般化ハフマン木問題が多項式時間で解けるケースを研究する。我々は既に、入力として与えられる各関数が0または1のみを取りうる関数であってもNP困難であることを証明している。他方、各関数が凸かつ非減少である場合にO(n^2 log n)時間で計算可能であることも示している。そこで、我々が注目するのは非減少2値関数である。これは、ある深さ以上に葉を置く場合に一定のコストが発生するということを表し、応用上も有意義である。 非減少2値関数は、取りうる2つ値の「差」と、その値が変動する「閾値」から特徴づけられる。これまでの考察から、インスタンスに含まれる異なる「差」の個数をパラメータとした多項式時間アルゴリズムの設計の目途が立っている。これについてさらに解析を行い、結果をまとめて国際会議で発表し学術雑誌に掲載する。加えて、最適解の視覚化ツールの開発を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由は、一般化ハフマン木問題の多項式時間アルゴリズムで解けるケースの研究の遅延にある。我々は、入力として与えられる各関数が非減少2値関数である場合を取り上げて研究している。非減少2値関数に関し、取りうる2つ値の「差」と、その値が変動する「閾値」がアルゴリズム設計の重要なカギとなること、および有名な組合せ最適化問題である「コインコレクター問題」を利用することに着目し、これを踏まえてアルゴリズムのプロトタイプを設計している。しかし、そのアルゴリズムを厳密に性能解析し論文にまとめる作業が遅れている。元々はこの結果を今年度中に国際会議で発表しかつ学術雑誌に投稿する予定であったが、これが次年度にずれ込んでいる。またこれに伴い、Web上などで一般化ハフマン木問題の最適化を視覚化するツールの作成も遅れている。 非減少2値関数を与えた一般化ハフマン木問題に対する多項式時間アルゴリズムの研究について、各種研究発表、学術雑誌への論文投稿、および視覚化ツールの開発のために本助成金を使用する。研究会や国際会議での発表では、国内外の研究者から、特にアルゴリズム性能評価についての意見を求める。研究会は電子情報通信学会コンピュテーション研究会などを考えている。国際会議は ISAAC や COCOON(ともに主にアジアにて開催)が候補である。学術雑誌は現在のところ、電子情報通信学会英文論文誌Aを考えている。また視覚化ツールの作成では、そのプラットホームとして、Wolfram Mathematica を用いた CDF(計算可能ドキュメント形式)が有力候補である。開発ソフトである Mathematica は有料であるものの、ブラウザでの閲覧プラグインが無料で配布されているのがこれを用いる理由である。
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