マルコフ連鎖モンテカルロ法(Markov chain Monte Carlo methods:MCMC法)は,理論計算機科学(Theoretical Computer Science)において強力かつ重要な道具であり,多くの研究者が注目を寄せている研究領域である.重要な未解決問題もたくさん残されており,本研究では,以下の2つを通じて,未解決問題のいくつかを解決することが目的であった:1. 新たなサンプリングアルゴリズムを提案する.2. 混合時間(mixing time)を算定するための新たな理論的解析手法を提案する. 具体的な研究課題として以下の2つを挙げていた.1. Tutte 多項式の近似可能性・不可能性において,未解決となっている部分の解決を図る.2. 半順序集合のイデアルの数え上げ問題が近似可能かどうかを証明する. これに対して実際の研究では以下のことを証明することができた.1. パスおよびサイクルの数え上げが#P完全である.2. パスおよびサイクルの数え上げが(RP≠NPのもと)近似不可能である. この結果は上の1つ目の研究課題に関連するものである.Tutte 多項式の近似可能性・不可能性において未解決となっている部分に「木」の数え上げに相当するものがある.パスやサイクルはグラフ構造として木に近い性質を持っており,そのため,そういったグラフの数え上げの近似不可能性を示したことは,木の数え上げの近似可能性・不可能性の解決に向けて何かしらの知見を与えていると期待できる.
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