本研究課題では、特性の異なる多種多様な端末を柔軟に収容する遅延耐性ネットワーク実現を目的とし、生物の環境変化に対する適応性を応用したノードの特性に依存しない遅延耐性ネットワークにおける経路制御の実現を目指す。平成24年度は、特性の異なるノード間の情報交換方法に取り組んだ。23年度までの成果から、ノード特性の中で移動速度と移動のパターンが経路制御の性能に比較的大きな影響を与えることがわかっている。そこで、脳や細胞の成長過程で形成される化学物質による濃度勾配に着想を得た方式により、ノードの移動特性を考慮した情報交換方法を提案した。本方式は、周囲のノードと局所的な情報交換にもとづいて経路制御に必要な勾配を形成し、形成した勾配にもとづいてメッセージを転送する。提案手法は、経路制御に必要な勾配(経路制御用勾配)に加えてノードの移動特性を加味した勾配(移動特性補正用勾配)を形成し、経路制御用勾配と移動特性補正用勾配を重畳することで、効率的なメッセージ転送する。経路制御用勾配は、隣接ノードから受信した情報をもとに自身の勾配値を計算し、その情報を他の隣接ノードに伝搬させることで形成する。移動特性補正用の勾配は、それぞれのノード内で計算する。具体的には、メッセージの目的地と通信した履歴をもとに時間減衰する勾配値を用いる。以上のように、提案手法は局所的な情報によって移動特性を補正する勾配を計算できる。シミュレーション評価を通して、移動特性の異なるノードが混在する環境におけるメッセージ転送遅延を最大で50%削減することを明らかにした。さらに、提案手法である移動特性補正用勾配は、複数の既存方式に応用することが可能であり、既存のいくつかの経路制御手法の性能を改善できることを示した。
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