研究課題/領域番号 |
23700099
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
玉井 森彦 奈良先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 助教 (90523077)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 無線LAN / 仮想化 / アクセスポイント選択 / モバイルIP / 負荷分散 |
研究概要 |
2011年度は,提案する無線LANインタフェース(NIC)仮想化によるアクセスポイント(AP)間動的負荷分散方式に関して,主に次の検討を行った.(1) 無線NICの仮想化方式の実現可能性に関して,ノートPC10台程度で構成されるテストベッド上で,開発・テストを行った.無線LANドライバとしてmadwifiを用い,複数AP間とのMAC層レベルの接続を,一つの物理NIC上でチャネル切り替えを行いながら維持するソフトウェアを開発した.提案する仮想化方式が,一般に入手可能なハードウェアにおいて実現可能であることを示すことは,提案方式の普及の観点から重要であり,その点について一定の見込みを得ることができた.(2) 提案方式では,無線NICを仮想的に複数APへ同時接続させることで,AP間の切り替えにおけるオーバーヘッドを非常に小さくすることが可能である.これにより,従来型の,一定周期に基づくAP切り替え方式と比べると,新規端末の追加やトラフィックの変動による無線環境の動的変動に対し,従来方式では,利用APの切り替えの遅れによる不必要なスループットの低下が発生してしまうのに対し,提案方式では,即座にAPを切り替えることで,そのような低下を避けることが可能である.この利点について,ネットワークシミュレータによる有効性の確認を行ったとともに,最も理想的な場合の性能の上限値を明らかにすることができた.(3) 複数APとの同時接続においては,一つの無線NICに対し,複数のIPアドレスが付与された状態で通信を行うため,APの切り替えによるTCPコネクションの切断を防ぐためには,それら複数のIPアドレスを束ねるための通信ミドルウェアが必要である.この通信ミドルウェアに関して,Mobile IP に基づく実装方法を検討し,その実現可能性についての見込みを得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案する仮想化方式の実現方法について,一般に入手可能なハードウェアを用いて調査,開発を行った.USB対応型の無線NICでは,ドライバの対応状況が不十分であるため,主にPCカード型の無線NICを用いた実装についての検討を行い,チャネルの切り替えや,MAC層レベルでの複数同時接続情報の維持,管理方法について,madwifiドライバの改修を行いながら動作確認を行った.現状では,当初予定していた数値目標である数10ms以内でのAP切り替えについては達成できていないものの,今後ドライバ内部の動作について,より詳しい調査を進めることで対応できるものと考えている.複数IPアドレスを束ねるためのミドルウェアの実現方法については,Mobile IP に基づく方法を検討するとともに,その実装について,オープンソースのソフトウェアを参考に開発を進めた.本機能については,現状までにほぼその実装が完了しており,TCPコネクションの接続を維持したまま,AP間のシームレスハンドオーバが可能であることを確認している.動的負荷分散のアルゴリズムについては,ネットワークシミュレーションにより,従来方式に比べどの程度の効果が期待できるかについて,理想的な場合におけるパフォーマンスの上限値を調査した.この調査結果に基づき,現実的な環境での制約を考慮した場合のアルゴリズムの開発に関して,理想的な場合に可能な限り近づけるための方策について,今後検討するための知見を得た.本成果については,マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO 2012)シンポジウムにて発表を予定している.
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今後の研究の推進方策 |
今後検討すべき課題は大きく以下のとおりである.(1) 無線環境におけるトラフィックの動的変動状況について,そのモニタリング機能の設計,実装を行う.本機能については,モニタリング用の制御パケットの送受信による無線容量の消費を避けるため,可能な限りパッシブに計測を行うようにする.(2) 前年度までのシミュレーション結果に基づき,動的負荷分散のための,現実的な制約を考慮したうえでの,AP選択アルゴリズムを考案する.(3) 無線NICの仮想化方式の実装について,当初予定していた10ms以内のAP切り替えを達成するための方法について,madwifiドライバのより詳細な動作についての調査をもとに,開発,テストを行い,実環境上で評価する.(4) 無線NICの仮想化,無線環境のモニタリング,複数IPアドレスの集約,動的負荷分散アルゴリズムの全てを連携動作させ,提案方式を全体として動作させた場合の有効性の評価をテストベッド上で行う.また,その結果について国際会議,学術論文誌で発表を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額が生じた要因は,研究の進捗状況に合わせ,予算執行計画を変更したことに伴うものである.また,次年度の請求額と合わせての執行計画は以下のとおりである.本研究に関連する資料として,書籍や論文の購入,また,学術論文誌での発表における論文別刷りに対し,研究費の利用を予定している.また,国内研究会,国際会議での発表のための旅費について研究費の利用を予定している.
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