本研究では,デジタル地球儀とスマートフォン上で動作する拡張現実ソフトウェアを連携させた,新たなデジタルアーカイブのデザイン手法の確立を目的とした. デジタル地球儀上のマッピングと擬似同期的コミュニケーション機能を組み合わせた上で,双方に共通のデータを用いた拡張現実表示を行い,仮想空間と実空間双方に対して時空間情報に紐づいた情報提示を行うための,効果的なデザイン手法を検討した.最終的に本研究の成果であるデザイン手法を用いて,広島・長崎原爆,東日本大震災,そして沖縄戦のデジタルアーカイブを構築した. これらの成果物は国内外で高い評価を受け,Linked Open Data Challenge 2012(ビジュアライゼーション部門グランプリ),東京デザイナーズウィーク2012 Design Next Award(グランプリ),映像情報メディア学会誌(2012年動画コンテンツ優秀賞)をそれぞれ受賞した.また,研究成果についての論文は,日本バーチャルリアリティ学会論文誌第17巻第3号に採録された. さらに研究成果の実用性も認められており,長崎原爆・沖縄戦についての実装例は,現在,長崎県および沖縄県の正式な事業として運営されているほか,東日本大震災についての実装例は,朝日新聞社の事業として運営され,グーグル株式会社によるオンラインアーカイブと連携している. ここまでに述べたように,本研究の目的は達成されており,その成果は高い評価を受けている.このことから,研究代表者の手法によって,個別の展示物に閲覧者の関心が集中し,展示対象となる事象全体の「実相」に対する理解が難しくなりがちな実展示を支援するオンライン・デジタルアーカイブを,誰でも容易にデザインできるようになったと言える.
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