最終年度は、提案した通信器の通信シミュレーションや光学系について、前年度までに行った解析の結果を評価および再解析し、論文化を行った。特筆すべき最終年度の研究環境の変化として、公益財団法人に就職したため、規定上アカデミックライセンスのソフトウェアの使用ができなくなり、1)新規システムのビット誤り率(BER)の計算(MATLAB/Simulinkの使用)、2)新規のレンズの設計および評価(CODEVの使用)、を行うことができなくなったということがある。このため、前年度までのデータを整理して再評価し、論文化する手法をとった。加えて光学系部分について光学的な観点から幾つかの考察を行った。 通信シミュレーションでは、昨年まではMATLAB/Simulink上に通信器の信号処理の過程を再現し、このモデルを用いて通信を再現することでBERを算出していた。いままではこのように数値解析的にBERを求めていたが、本年度は信号処理の一部を数式化して評価することを試みた。この結果、なぜそのようなBERの分布になるのかを一定程度説明することができるようになり、これがBERの分布と一致していることを確かめることができた。 光学系の解析については、昨年度まで実際の撮像系のモデルを使用し、モンテカルロ光線追跡を行うことで動作を再現していた。本年度システム動作に必要な要件を見直し、またレンズの働きについて調査し直したところ、実際の撮像系のモデルは過剰性能であり、より単純なレンズでも動作要件を満たすことがわかった。撮像用のレンズは平面の受像面のどの位置でも、光を一点に集光することを目的として設計されているが、本システムでは受光象限の境界線がある中央部近辺でのみ集光半径が小さければ動作でき、また単一波長の光を用いるため色収差の修正なども必要ない。このため、一定の条件下では、例えば両凸レンズやボールレンズなどの単レンズでもシステムを動作させるられることがわかった。
|