本研究はろう者と聴者とが参加する学術ミーティング(読書会,研究大会,ワークショップ等)における専門用語通訳に資するデータベースの構築を目的としている.平成24年度は,収集したデータの整備をさらにすすめ,相互行為的な側面に注目して以下の分析を行った. 1.ある専門用語に対する手話表現を決定する手続きとはどのようなものか 研究遂行にあたって組織した手話通訳者・ろう者を含むワーキンググループでの検討を重ね,特に参加者にとって初出の専門用語で定訳がないものの場合,漢字を利用した表現を用いることによって訳出される場合が多いことがわかった.これは参加者の手元にあるテキストと産出された手話表現との対応を取ることができるようにする,その場だけではなく別の場面での再利用が可能な一般的に流通させやすい形式として漢字利用表現を選択する,といった問題処理と密接に関わっているという知見が得られた.また漢字を利用するにあたって用語をいくつかの部分に分割してそれぞれに漢字をあてはめていく技法,用語全体を1つの漢字利用表現で表す技法など,いくつかの技法が存在していることも明らかとなった. 2.通訳者が手話による発話を日本語に通訳する際,専門用語の手話表現を選択すること以外に変更・追加・修正している要素にはどのようなものがあるのか 通訳者は専門用語そのものを表す手話表現をその場で構成すること以外にも,参加者の中の誰がその用語を使っているのか,その参加者は他の参加者の誰に宛てて用語を使っているのか,といった場の構成に関わる要素を通訳発話の中に含めていることがわかった.またこれらの知見をデータベースとして公開するために,データベースに含めるべき項目の選定とそれらの関連づけについての検討を開始した.
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