研究課題
高臨場感音再生技術を実現するための有望なアプローチの一つとして、音源から両耳までの音響伝達関数を表わす頭部伝達関数(HRTF: Head-Related Transfer Function)を用いた聴覚ディスプレイ(VAD: Virtual Auditory Display)がある。VADの性能は,使用されるHRTFと受聴者のHRTFが異なる場合に大きく低下することが指摘されてきたが,受聴者の頭部運動に追従可能な動的VADなどにより音像定位精度は大きく改善されることが分かっている。しかし,「高臨場感」という大きな観点から見れば動的VADの使用だけでは不十分であり,やはり使用されるHRTFと受聴者自身のHRTFのマッチングの問題が解決されなければVADの真の高精度化・高臨場感化は実現できないと考えられる。そのためには,ヒトの頭部・耳介形状の個人差を原因として生じるHRTFの個人差を補償する必要があるが,HRTFの生成メカニズムには明らかにされていない部分が多い。本研究では,数値解析と拡大模型を用いた実測によりHRTFの生成メカニズムを詳細に検討することで,人体の物理形状とHRTFの関連及びHRTFの個人差の要因を明らかにし,VADで使用されるHRTFを各受聴者個人に対して最適化するための知見を得ることで,聴覚ディスプレイの高精度化・高臨場感化を目指す。本年度は以下の項目を実施した。1.前年度に作成した拡大耳介モデルに対し,その耳介表面及び近傍音場の測定を行うために,今年度購入した音響用多チャンネル信号増幅器を中心とした測定システムを構築2.前年度未実施項目であった実寸大耳介モデルの作成3.前項で作成したモデルとは別の被験者6名に対する頭部・耳介コンピュータモデルを作成
3: やや遅れている
拡大・実寸大耳介モデルの表面音圧測定のための測定システムの構築,特に多チャンネル信号の同期出力入力システムの実装が難航したため,本年度に予定していた測定を全て実施することができなかった。
前年度に作成した拡大耳介モデル,及び本年度に構築した測定システム及び実寸大耳介モデルを用いてHRTF及び耳介表面音圧の分布を測定するとともに,本年度に作成した6名の被験者の耳介コンピュータモデルを解析対象としてHRTF及び耳介表面音圧の数値解析を行う。それらの結果から,耳介キャビティ内で生じる音響物理現象とHRTFの特徴の関連を詳細に観察・比較することで,HRTFの特徴の生成メカニズム及びその個人差を生む要因を解明する。
該当なし
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Acoustical Science and Technology
巻: Vol.33, No.5 ページ: 332-334