研究課題/領域番号 |
23700156
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉仲 亮 京都大学, 情報学研究科, 助教 (80466424)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 文法推論 / 計算論的学習 / 文脈自由言語 / 弱文脈依存言語 |
研究概要 |
文法推論は形式言語の理論的な学習可能性と効率を追究する研究分野であるが,正則言語の学習に関する豊かな蓄積が応用分野にも影響を与えているのに対し,それを超える文脈自由言語等の学習に関しては肯定的な結果が少なく,応用分野へのインパクトは限定的であった.近年, Clark を中心とする研究者らによって,文中での語句の分布に基づいた学習の方法論が研究され,いくつかの文脈自由言語の部分クラスに対して効率的な学習アルゴリズムが提案されている.本研究では,このアプローチを深化させ,多様な応用分野に即したフォーマリズムに対して効率のよいアルゴリズムを提案することで,理論的な精度保証のある実用的なアルゴリズムに直結する理論的基盤を与えることを目指している. 平成23年度は,文字列の集合としての言語の学習を,木構造の集合としての言語の学習へと展開させた.語句の分布情報に基づく文脈自由言語の学習アルゴリズムは多様なものが提案されてきたが,それぞれのアルゴリズムを個別に発展させるのではなく,これらの文脈自由言語の学習アルゴリズムを,包括的な視点から単純文脈自由木言語の学習アルゴリズムへと翻訳する一般的な方法を議論した.単純文脈自由木文法は,自然言語処理分野でもよく用いられる木接合文法の一般化にあたる.この意味で単純文脈自由木文法の学習に関する結果は理論的に強力であり,自然言語処理のような応用分野へのインパクトが期待される. また,これまでに提案されてきた,語句の分布情報に基づく学習アルゴリズムは,2つの異なるアプローチを持つ下位範疇に分類されてきていたが,それぞれの特長を融合させ,より強力な学習アルゴリズムを設計することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書には今年度の研究計画として,文脈自由言語を対象とした語句分布情報に基づく学習アルゴリズムを,より複雑な構造を扱う文法形式へと拡張することをうたったが,これについて,木接合文法を含む単純文脈自由木文法への拡張を成功させた.この点において,計画は順調に進められている.さらに,そこでの議論は単純文脈自由木文法の特殊な数理的性質を利用するものではなく,より一般的な包括的な視点を提供するものであり,他の多様なフォーマリズムへの応用の道を拓いた.このような一般的な視座は計画を超えた成果といえる. 一方で,計画で掲げたもう一つの目標である学習可能な言語の文法的な特徴付けについては,十分な成果が得られていないが,この点については本研究課題全体の目的のために必要不可欠な知見とは言えない. これらから,総じてみれば計画は順調に進んでいるものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度においても,語句の分布情報に基づく学習の唱導者である A. Clark 博士をロンドンに訪ね,本課題研究に資する学問的な情報交換,議論討論を行ったが,平成24年度以降も引き続き折を捉えて同博士や関連研究者との議論を密にして研究を発展させていく. 平成23年度において,より複雑な文法形式の学習に関して良い成果が得られたので,この方向により注力し,さらなる発展を企図する.従来の語句分布情報に基づく学習はもっぱら線形な導出過程を持つ文法形式のみを対象としていた.しかし,線形な導出過程では表現できない特殊な言語現象も知られており,中間生成物を複製するような導出過程を持つ文法形式の学習へと,従来の学習手法を拡張する.
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次年度の研究費の使用計画 |
国際会議での成果発表のための旅費に加え,海外研究者との交流のため,訪問もしくは招聘のための費用に,研究費の大きな部分を割く.この他,計算機実験のための計算機の購入も検討している.
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