本研究では、「AはBだ」「BのようなA」という名詞が名詞を修飾する比喩に関し、喩えられる語(A)、喩える語(B)のどちらに対しても関連の弱い特徴が比喩の解釈として創発される現象(特徴創発)の認知メカニズムを明らかにすることを目的としている。 既に、コーパスを用いて構築した比喩理解の計算モデルによるシミュレーション・心理実験により、喩える語と喩えられる語のインタラクションにより創造的な解釈が創発することが示唆されている(Terai & Nakagawa 2012)。しかし、喩える語と喩えられる語のインタラクションに関して詳細な検討は行われていない。そこで、本年度は比喩理解解釈時における眼球運動測定を実施し、喩えられる語・喩える語に対するアテンションの変遷を確認することで、特徴創発プロセスを詳細に検討した。 その結果、新規比喩において創造的解釈を生成する際、喩えられる語・喩える語への注視時間が多く、また解釈生成の約10秒前程度において喩えられる語に対する注視が増加していることが明らかとなった。 類包含理論(Glucksberg & Keysar 2001)では、比喩解釈は、喩える語の持つ性質から比喩を解釈するために(喩えられる語に適応可能な)アド・ホックカテゴリが形成され、喩えられる語をそのメンバーと見なす事により解釈が成立する、と説明されている。本研究の結果は、アド・ホックカテゴリ形成において喩える語の特性探索と共に喩えられる語への適応可能性の確認が同時に行われていることを示唆している。 さらに、上記の脳内メカニズムを確認すべく、同様の実験デザインにてfMRIを用いた実験を実施した。 また、比喩理解支援システムの構築の一環として、文章作成支援システム生成を目的としたコーパスに基づくモデル構築を実施した。
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