研究課題/領域番号 |
23700197
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
齋藤 毅 金沢大学, 電子情報学系, 助教 (70446962)
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キーワード | 歌声合成 / 音響分析 / 発声学 / 聴覚心理 / 歌声データベース |
研究概要 |
本年度は,次の3項目について研究を進めた.1.昨年度から進めている歌唱データベースの大規模化,2.歌唱における特殊発声データを対象とした音響分析・歌声合成,3.歌声信号間の類似度を規定する音響特徴の検討 1の歌唱データベースについては,昨年から共同作業を進めている昭和音楽大学に加え,東京芸術大学の協力のもと,オペラ歌唱(ソプラノ,テノール,バス,バリトン)とポピュラー歌唱の収録を行った.プロ/アマチュア歌唱者20名による225トラックを収録し,とりわけ昨年までのデータベースで不足していた男性歌唱を中心に進めた, 2においては,歌唱時固有の声区(地声・裏声)制御を含む歌唱データを対象に,(a)声区制御時の音響・生理分析,(b)声区制御を含む歌唱合成の作成と評価,を行った.(a)において,音響分析の結果から声区変換時の急峻な声の高さの変化と,それに伴うスペクトル形状の変化を確認することができた.また高速ステレオカメラを用いた声帯振動計測の結果では,声区変換時の声帯振動様式の連続的な変化を確認した.(b)においては,(a)で明らかとなった音響特徴を操作することで,自由に地声と裏声を変換可能な合成方法の基本的なアルゴリズムを実装し,その有効性を確認することができた. 3においては,歌声信号の新しい音響的表現方法として歌声解体図を構築した.歌声解体図とは,歌声信号を声の高さや音色に対応する大局的な特徴に分解するのではなく,音楽的・発声的に重要なより細かい特徴に分解し,階層的に歌声信号を記述するものである.この歌声解体図を基に,異なる歌声信号間の類似度を規定する音響特徴について詳細に検討できることが可能となった. 以上の成果は,本研究の目標である高品質で多様な歌声を合成可能なシステム構築に必要なだけでなく,歌声の知覚・生成機構の理解に資するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高品質で多様な歌声を合成可能な歌声合成システムの構築に向け,大規模な歌声データベースの構築に加え,特殊な発声を伴う歌唱データの分析・合成と歌声間の音響的類似度を規定する音響特徴の調査を行った. 本科研費申請書の「9.研究実施の概要」で示した通り,今年度の目標としてた各種音響特徴の歌声知覚に与える影響の調査については,十分な検討を行うまでには至らなかった.しかし,本目標を達成する為の基盤技術を構築することができたため,次年度の早い段階において達成できるものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標である自然で多様な歌声を合成可能な歌声合成システムの構築を進める. これまでの成果で明らかとなった歌声合成に必要な各種音響特徴と歌声知覚の関係を詳細に調査し,各特徴の最適な操作方法について検討する.更には,各特徴間の相互関係についても調査し,特徴間のインタラクティブな制御が可能な歌声合成インタフェースの構築も目指す.歌声合成システムの基盤については,既に先攻研究において構築されているため,この技術に改良を加えることで,作業の効率化を試みる. また,今年度までに進めてきた大規模歌声データベースの音響分析を進め,本課題の歌声合成システムの構築だけでなく,歌声知覚・生成機構の解明に資する新しい知見の発見も目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
設備品として,歌声合成システム構築に必要な計算機を1台購入する.また,研究に必要な消耗品として,記録メディアを購入する.また,本課題に関する情報収集や成果発表の為の学会参加に係る旅費・参加費,更には論文執筆や投稿に係る費用として使用する.
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