研究課題/領域番号 |
23700207
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
満上 育久 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (00467458)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / コンピュータビジョン / 三次元形状復元 |
研究概要 |
三次元形状復元は,コンピュータビジョンにおける重要な課題の一つである.近年,Structure from Motion (SfM) やMulti-view Stereo (MVS) などの手法については,比較的安定に動作するオープンソースソフトウェアとしても提供されるようになり,これらの技術を誰もが容易に利用できるようになってきている.しかし,これらの手法が適用できるシーンはまだまだ非常に限定的であり,我々の日常生活の中でよく見かけるテクスチャの少ない物体や光沢物体,透明物体などには適用できない.本研究課題ではこれまでに,対象物体を複数の視点から撮影した画像を用いて,そこから疎な三次元点群と鏡面反射ハイライトを獲得し,密な三次元形状復元を行う手法を提案した.この手法では,対象物体の表面形状の局所領域を多項式曲面で表現し,その局所曲面を,特徴点ベースのSfM によって得られる三次元点群と鏡面反射ハイライトから得られる法線情報を同時に満たす多項式曲面として算出する.そして,得られた局所曲面を統合して,形状復元結果とする.この手法によって,光沢物体の形状復元において,その表面のテクスチャから得られる三次元点群のみを用いるよりも正確な復元が可能となった.なお,この手法では,点光源がカメラの視点位置に存在するという条件を設けている.この条件は一見特殊に見えるが,一般的なフラッシュ内蔵型のデジタルカメラで対象物体を撮影する際には,近似的にこの条件を満たすものと捉えられるので,その適用範囲は広い.また,この提案手法は,任意の光源環境下で利用可能な汎用的な手法であるという点でも優れている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画において当該年度に実施すると記した「3次元点群とハイライト情報を利用した3次元物体の形状計測手法を一般化し,その定式化・アルゴリズム実装を行う」,および,「レンダリングソフトPOV-Ray[7]等で作成したCGデータおよび実物体を用いた評価実験」については十分に達成した.実物体の評価においてはコニカミノルタ社のVIVID 9iを用いて正解形状との比較を実施した.以上により,当該年度の目標は十分に達成したと考えられる.また,この提案手法は光沢物体だけでなく,一部の半透明物体の三次元形状復元にも有効であることを確認している.本研究課題では,H24年度の実施計画として,光沢物体のみでなく他の反射特性を持つ物体への対応を挙げており,すでにその一部を実施していると言える.さらに,これまでの成果が国内外の会議で賞を得ている.国内では,コンピュータビジョンにおけるトップ会議である画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2011)において,採択率約17%のロングオーラルセッションに採択された上,優秀論文賞を受賞した. これは,本研究課題の成果が高い評価を得ただけでなく,コンピュータビジョンの国内研究者に広くこの成果を周知できたという意味でも評価に値する.国外では,産研国際シンポジウムでBest Poster Awardを受賞した.ナノテクノロジーから人間行動解析まで広範囲の研究発表を含むこのシンポジウムにおいてコンピュータビジョンの研究で唯一の受賞であり,本研究成果が幅広い分野の研究者から高い評価を得たといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方針として,計測性能の向上とモバイル端末でのシステム実装が挙げられる.まず,計測性能の向上のための方策としては,提案手法で利用しているStructure from Motion (SfM)によるカメラの位置・姿勢および三次元特徴点の推定精度の向上が挙げられる.現在の実装では,このSfMのためにSnavelyらのオープンソースプログラムであるBundlerを使用している.これは,SfMツールとしてコンピュータビジョン・ロボットビジョンの研究開発において多く利用されているプログラムである.しかし,その実装にはヒューリスティックな処理やパラメータが多く含まれており,結果の安定性の面でやや問題がある.本研究課題の三次元形状復元の性能を向上される上で,このSfMの性能がボトルネックになることが多くあることを確認している.本研究課題では,このSfMに着目し,これまでヒューリスティックなアプローチが取られていた処理について,Convex Optimzation,Rank Minimizationなど近年提案された数学的テクニックを適用することで,安定なSfMの実現を目指す.また,より安定なSfMが実現されることによって,対応点が安定に得られないために復元できなかった半透明物体なども復元できるようになる可能性がある.モバイル端末へのシステム実装としては,開発の容易さや実際の利用シーンを想定すると,近年急速に普及したスマートフォンへの実装が最適であると考えられる.スマートフォンはインターネットとの通信機能を有するため,三次元形状復元されたデータを遠隔地にいる他者に伝送することも可能である.これはオークションや遠隔会議における三次元物体の情報共有などのアプリケーションイメージとも適合する.
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次年度の研究費の使用計画 |
Structure from Motion (SfM) の性能向上に向けては,Convex Optimzation,Rank Minimization等のテクニックを用いる.これらのテクニックは,ここ数年で海外を中心に利用されるようになったもので,その実装方法や特性などの知見はまだ十分でない.そこで,これらのテクニックに詳しい研究者としてMicrosoft Research Asiaの松下康之氏と蜜に意見交換をしながら研究をすすめる体制をとる.基本的には,週1回程度のネットミーティングで議論しながら進めるが,定期的にMicrosoft Research Asiaに訪問研究員として滞在し他の研究者とも意見交換をする.このため,当初計画よりも旅費の増加が見込まれる.
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