研究課題/領域番号 |
23700209
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
栗田 雄一 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80403591)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 滑り知覚 / 力制御戦略 / インタフェース |
研究概要 |
本研究の目的は,人の滑り知覚規範の力制御戦略を工学的に応用可能な形で定式化し,人を機能的に模す,または人と相互作用する実システムに応用することにある.そこで本年度は,大きく(1)滑り知覚規範による人の力制御戦略のモデル化,(2)滑り提示による重量・摩擦感を錯覚させるハプティックデバイスの開発の課題に取り組んだ.(1)については,従来研究にて製作した接触面計測装置のアイデアをベースに,カメラで接触面をリアルタイム計測できるようにした上で,デバイス把持時の偏心度プロファイルを測定可能な構造とした.さらにデバイス下部におもりを設置することで重量を,接触面プレートに液体を塗ったり別のプレートに交換したりすることで摩擦係数を変えられる構造とした.このデバイスを使って各重量・摩擦のときの偏心度プロファイルを計測し,以前我々が測定した横方向スライドの偏心度表現モデルが適用可能であることを確かめた.(2)については,(1)で製作したデバイスを改造し,持ち上げ動作を行ったときの偏心度の変化を内蔵カメラによりリアルタイム計測し,偏心度をあらかじめ設定した目標プロファイルに近づけるようアクチュエータによりプレートを制御して指先変形を与えるデバイスを開発した.さらに被験者実験を行い,目標重量と摩擦を個別に設定したときの目標偏心度プロファイルを実現する指先変形をアクチュエータにより与えることで,人が重量・摩擦感を錯覚することを確かめた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画では,平成23年度は滑り知覚規範による人の力制御戦略のモデル化について,偏心度計測技術を活かして接触面計測装置を製作し,重量・摩擦を変化させたときの偏心度プロファイルの取得と,偏心度を入力とし把持力を出力とする伝達関数の同定とモデル類似度の評価を行い,滑り知覚規範を定式化した上で一般モデルの構築,個人差の評価に取り組むことを目標としていた.これを踏まえた上で,今年度はまず計測システムの製作を行い,重量・摩擦を変化させたときの偏心度プロファイルの計測を達成した.またモデル化については,当初は持ち上げについては以前我々が提案した横スライド時の把持・負荷力モデルでは不十分である可能性を危惧していたが,実験の結果,持ち上げについてもある程度その力制御戦略を模せることが判明したため,先に滑り知覚規範制御のインタフェース応用に優先して取り組むこととした.そこで計画では平成24年度に実施する予定であった滑り提示による重量・摩擦感を錯覚させるハプティックデバイス開発の課題に前倒しで取り組み,製作した計測システムを改造することでプロトタイプを製作した.実験結果は良好であり,被験者を用いた実験結果からも我々の目論見通り,適切な指先変形を与えることで重量感・摩擦感を人に与えることが可能であることを確かめることができた.この結果は高く評価され,ロボット・知的システムに関するフルペーパー査読つき国際トップカンファレンス(IEEE IROS)に採択,口頭発表をしたのに続き,日本におけるロボット系学術研究の代表的な学術論文誌である日本ロボット学会誌に採録が決定した.
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今後の研究の推進方策 |
滑り知覚規範による力制御戦略をインタフェース応用する,という研究アイデアの有用性が確かめられたため,今年度はさらにこの考えを別のコンピュータインタフェースに応用していく.iPadやスマートフォンに代表されるように近年タブレット端末の普及が著しいが,興味深いことにこれらの操作は指先を端末に滑らせて行わせるタッチインタフェースが使われていることが多い.これらの操作は人が指を動かしたときの接触面の変化や力の大きさなどを計測することで実現されているが,指をどれくらい動かしたときに画面がどれくらい変化するのかは各社・各機種でばらばらであり,違和感を与える原因にもなっている.そこで我々の提案する偏心度ベースによる指先変形の定量化指標を用いることで,直感に反さないコンピュータインタフェースを実現できる可能性がある.昨年度,提案手法のインタフェース応用への発展性が期待される結果を得たことを踏まえ,本年はこのアイデアに着目した研究を行っていく予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでは数センチ四方程度の接触面計測装置を利用していたが,タッチインタフェースへの応用を考えるために計測範囲の大画面化が必要であり,そのための器具の購入を行う.さらにアクチュエータを付与することも検討する.また学外研究協力者との意見交換も活発に行い,学外発表,論文投稿ふくめ,成果の発信に努める.
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