研究課題/領域番号 |
23700214
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
石橋 良太 首都大学東京, システムデザイン学部, 助教 (20535835)
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キーワード | 国際研究者交流 / ロボティクス / ハプティクス / システム制御 / 知覚運動制御 / 力触覚 / 触覚受容器 / スポーツ科学 |
研究概要 |
本研究は,ヒトの能動的触覚センシング原理を明らかにすることである.特に,機械受容器とその周辺構造からなるセンサ系の力学特性が動的条件下においていかに機能するのかを明らかにする.はじめに,皮膚構造と触覚受容器からなるセンサ系の動特性を考慮した指先の制御原理を解析する.次に対象を筋空間でのセンサ系へと展開し,上腕や下肢の運動をタスクとした運動制御特性の解析と実験的検証を進める. 平成23,24年度は,指先皮下の機械受容器とその周辺構造のモデルを導出し力学特性を考察した.次に,研究対象を筋空間でのセンサ系へと展開し,人体の骨格筋構造のモデル化とパラメータ推定に取り組んだ.骨格筋構造に関する制御原理は,拮抗筋の内力を利用した筋張力の制御法として人工筋(SMAアクチュエータ)を利用した腱駆動ロボットを用い,位置制御,インピーダンス制御等に関してむだ時間を有する強い非線形系における制御原理の機能的検証がなされた.また,繰り返し学習制御とパラレルワイヤ駆動装置を利用した人体のパラメータ推定法を展開した.さらに,上腕や下肢運動における知覚と運動特性の解析を進めた.平成24年度からは,片足立ち姿勢制御を例に基礎実験と解析を進めた.従来までの成果では,足裏の機械受容器に無意識下で機械ノイズを印加すると,SRの効果により姿勢制御機能が向上することが確認されている.このことは前述の皮膚構造モデルからも考察できる.平成24年度は,無意識下で筋が受ける外乱の作用を調べることにより,筋のセンサ系が能動/受動運動に際していかに機能するのかについて調べた.さらに,上肢による目標軌道追従動作を題材とし,軌道追従時の予測機能を調べた.ここでは,簡便な制御モデルとして,骨格筋等の身体特性を考慮したモデル予測制御系を構築し,数値シミュレーションによる検証をおこなうとともに,タブレット操作タスクを例に実証を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.皮膚と受容器の力学モデル: 皮下構造等の柔軟体のモデリングでは,モデルの複雑化とそのパラメータ推定が問題となる場合がある.これまでの成果では,皮下構造等を簡便な力学モデルで記述しその作用を実験的に示した.ここでは,外力による皮膚変形に際して,機械受容器の周辺構造(真皮乳頭とコラゲン繊維)が触覚受容器への情報伝達に大きく寄与しており,ヒト固有の非線形な知覚特性の一因となり得る可能性を力学モデルと実験により示した.本知見を展開すれば,ヒトに近い特性の人工皮膚や点字デバイス等の各種触覚提示法の構築に際して有用な知見をもたらす可能があると想定される. 2.身体の力学特性と制御,身体の力学パラメータ推定: 筋空間での知覚と運動に関し,人工筋(SMA)を利用した腱駆動系により検証を進めた.ここでは,目標位置での内力を用いた制御法に関し,むだ時間を有する強い非線形系であるSMAでの有効性を示した.平成24年度は,腱収縮により生じる力学特性は腱配置により異方的に可変であることを示した.本原理は,知覚制御原理の解析に用いるとともに,腱の端点の配置を可変する機構の導入により剛性制御法へと拡張し,SMA拮抗駆動系におけるヤコビ行列を用いた位置と剛性制御法へと展開した.さらに,指先によるなぞり動作を例に,軌道追従時の予測機能を調べた.ここでは,骨格筋等の身体特性を考慮したモデル予測制御系を構築し検証を進めた. 3.知覚と制御系: 平成24年度は,皮膚構造における知覚原理を筋紡錘へと拡張し,片足立ち姿勢制御を例にその機能を調べた.ここでは,片足立ち姿勢制御に際して,無意識下で筋が受ける外乱の作用について様々な条件下において解析を進めた.解析では,特に運動強度や習熟度等の条件に関して仮説を立て実証を進め,筋のセンサ系が能動/受動運動に際していかに機能し,外乱はいかに作用するのかについての知見を得た.
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今後の研究の推進方策 |
ヒトは四肢を動かし様々な情報を取得することが知られている.本研究では,第一段階として,この様な動作を伴うセンシングに際して,触覚受容器の動特性を考慮した基礎原理を明らかにするためのモデル化と基礎的実験をおこなった.また,研究対象を筋空間でのセンサ系へと展開し,制御特性の解析,制御アルゴリズムの導出をおこない,人工筋アクチュエータを用いて検証をおこなった.さらに,上腕や下肢の運動をタスクとした実験的検証を進めている. 25年度は以下の課題に取り組む. 触覚機能に関わる皮膚構造モデルに関しては,表面変形から伸縮による神経発火までの動特性モデルを得る.その後, 指先の制御系と統合した能動的センサ系について, 知覚と指先動作との関係を明らかにし,触覚情報を考慮した運動制御系を構築する.また,運動制御では,先に人工筋において検証した骨格筋の制御モデルを拡張するとともに,予測の作用を考慮した制御モデルを改良して解析を進め,これらを知覚運動モデルへ統合することで前述の実験結果の解析へ用いる.同様に,人体のパラメータ推定法に関しても筋空間での特性推定を視野に入れた形で展開し,知覚制御系の機能解明へ用いる.さらに,片足立ち姿勢制御に関しては,無意識下で筋が外乱を受ける場合に関して実験的検証と解析を進める.特に,前年度に続き,運動強度や習熟度等の条件に関して仮説を立て実証を進めることにより,筋のセンサ系が能動/受動運動に際していかに機能するのかについて調べる.以上の成果をまとめ,論文投稿を進める.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,24年度までに得られた成果に関して国内外の学術講演会での発表等を通じて公開するとともに,発表をおこなった成果に関しては論文投稿と知財の申請をおこなう予定である.また,海外の研究機関との共同研究の遂行に際しては,Skype等の電話会議を適宜用いる.実験装置としては,23,24年度に購入した備品を継続利用するとともに,計測と制御用の機器部品を揃えるための予算を計上する.また,原理検証のための実験被験者に関する謝金と,論文投稿料を計上する. 平成24年度は,旅程等の変更と工夫による経費減のため,直接経費の未使用額(残金)が発生した.
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