人間の皮膚と同様に柔軟かつ順応特性の異なる2種の受容器をもち、多様な触覚知覚を同時に可能とする人工スキンの研究開発を実施した。人工スキンの構成要素として、研究実績のある磁気式触覚センサをユニットスキンとして用いた。このユニットスキンは、対象物に接触する柔軟な層とその下の回路基板の層からなる2層構造である。柔軟層には磁石が埋め込まれており、接触に伴う柔軟層の変形によって磁石が変位し、その変位から生じる磁界の変化を回路基板上の磁気抵抗素子とインダクタという出力特性の異なる2種類の素子によって計測する。 本研究では、このユニットスキンを2つシームレスに配置することで分布型のマトリクス・スキンを構成した。ユニットスキンは磁気抵抗素子とインダクタという出力特性の異なる検出素子をもつことから、これらの素子の出力を融合し触覚知覚を出力可能な階層型触覚情報処理モデルを提案した。まず、ユニットスキンを用いて触覚テクスチャの粗さ感を計測し、粒度の異なるサンドペーパーの識別の可能性について検証した。 次に2つのユニットをもつマトリクス・スキンを2指のグリッパに搭載した。把持する対象によって、接触した瞬間のマトリクス・スキンの出力変化が異なることにもとづいた閾値処理をグリッパに実装した。このグリッパとマトリクス・スキンを用いることで硬い金属、アクリル、柔らかいマシュマロを安定して識別し、落とすことなくなおかつ潰すことなく、それぞれを把持できることを確認した。さらに2つのユニットをもつマトリクス・スキンを子供用マネキンに埋め込み、鞄の肩紐の接触位置や深さの大まかな計測ができることを確認した。 以上、粗さ感などの触感テクスチャの評価から、産業用ロボットの手先であるグリッパへの応用、またマネキンへの適用による装着感の評価の可能性の検討を通じて、提案するマトリクス・スキンの有用性を検証した。
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