研究課題/領域番号 |
23700233
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
成岡 健一 大阪大学, 情報科学研究科, 特任研究員 (30588356)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 赤ちゃんロボット / 筋骨格系 / 運動発達 / 認知発達ロボティクス |
研究概要 |
ヒトの運動能力は乳幼児期に発達的に形成される.その発達メカニズムの解明は,ヒトの知能の原理を知る上で非常に重要な課題である.一般的に,ヒトは自らの視覚や触覚,聴覚等のモダリティを通して環境から情報を受け取り,また自らの身体を通して環境に働きかけながら様々な運動を獲得していく.したがって,脳や神経系のみでなく,環境との相互作用を規定する身体性が運動発達に重要な役割を担うと考えられる.本研究では,特に赤ちゃんの柔軟な身体に焦点を当て,その身体性の役割を構成的に調査することを目的としている.初年度は,人工筋骨格系と人工皮膚および視触覚などの感覚系を有する赤ちゃん型ロボットプラットフォームを開発する.次年度に,開発したプラットフォームによる実験を通じて,漸次的な運動発達モデルの構築を目指す.本年度の研究成果は以下に集約される.第一に,空気圧アクチュエータを利用した人工筋骨格系を有する赤ちゃんロボットの開発を行った.これまでに開発したロボットをベースとしつつ,より実際の赤ちゃんに近い関節可動域を実現するために,筋の集中的配置と腱駆動方式を採用した.第二に,超軟質ウレタンゲルを用いてシート状の柔軟皮膚を試作し,複数のひずみゲージを埋め込んだセンサシステムを開発した.その性能評価実験として,赤ちゃんロボットの腕部に人工皮膚シートを巻きつけた状態で地面に押し付ける実験を行い,センサデータから押し付け方向が判別できることを示した.第三に,触覚センサを内蔵した人工皮膚を筒状に成形する方式に改良し,ロボットの四肢に固定しやすいようにした.試作した人工皮膚を各腕および各脚に実装したのち,皮膚に様々な物理刺激を与え,触覚機能を評価した.また,ロボットの四肢を周期的に運動させた際のセンサ情報から,環境との接触および自身の運動状態に関する識別が可能であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はハードウェア開発を中心に,概ね計画通り研究を遂行した.その内訳は,1. 機構系の設計・製作,2. 視覚系の実装,3. 人工皮膚,触覚センサの実装である.以下に示す通り,おおむね順調に進展している.1. 機構系の設計・製作:ロボットの多様な運動を生成するためには,よりヒトに近い自由度構成,運動可動域,質量分布等が必要である.これまでに開発したロボットをベースとしつつ,上述の要素を念頭において筋骨格ロボットの身体を設計,製作した.空気圧人工筋の増加に伴い,省スペース化が必須となるため,空気圧人工筋の小型化,配置の効率化などの工夫を施した.2. 視覚系の実装:汎用的な画像処理ライブラリを利用しながら,画像特徴量を用いて環境中から対象物や自身の身体の一部を切り出し,自身とそれら間の距離を計測する視覚注意モジュールを構成するための予備的な実験を行った.人工筋駆動用の制御機器と統合した視覚処理-運動制御システムを構築し,小型化して全て頭部に埋め込むことを想定しているが,これは次年度の課題となる.3. 人工皮膚と触覚センサの実装:超軟質ウレタンゲルを用いてシート状の柔軟皮膚を試作し,複数のひずみゲージを埋め込んだセンサシステムを開発した.その性能評価実験として,赤ちゃんロボットの腕部に人工皮膚シートを巻きつけた状態で地面に押し付ける実験を行い,センサデータから押し付け方向が判別できることを示した.さらに,触覚センサを内蔵した人工皮膚を筒状に成形する方式に改良し,ロボットの四肢に固定しやすいようにした.試作した人工皮膚を各腕および各脚に実装したのち,皮膚に様々な物理刺激を与え,触覚機能を評価した.また,ロボットの四肢を周期的に運動させた際のセンサ情報から,環境との接触および自身の運動状態に関する識別が可能であることが示された.
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今後の研究の推進方策 |
まず,ロボットへの視触覚系の実装を行い,プラットフォームを完成させる.リーチング,ずりばい,はいはいを対象として,開発したロボットがそれらの運動を漸次的に獲得するような運動発達モデルを構築し,実験的に検証する.身体と環境の相互作用を規定する身体性を十分に意識しながら,漸次的に獲得される各運動発達を統一的に記述したモデルを製作し,ロボットを用いた発達実験を通じてモデルの修正,精緻化を行う.まず,環境中にロボットと対象物を置き,前述の視覚注意モジュールを用いて手先部位と対象物を認識させる.これらの位置情報を利用して,対象物へのリーチングが実現されるような報酬系および運動指令生成器を考案する.アイデアの一例としては,「興味を持った対象への接近」や「運動指令に対する視触覚情報の予測可能性」などをロボットの基本行動則とし,報酬系として記述することを想定している.また,全人工筋を等頻度で活性化させるのではなく,リーチング運動に深く関与する筋群を発見するような運動指令モデルを考えることにより,リーチング運動の習熟にともなって運動指令が構造化され,自律的な運動探索空間の拘束が生じるようになる.次に,対象物の位置,人工筋の最大出力,報酬系等の各種パラメータを変化させながら,手腕を用いた前進運動(ずりばい)が発現する条件を調べる.特に,リーチングの運動経験の有無がずりばい運動の獲得にどのような違い生み出すのか比較し,その効果を検証する.さらに,同様の方法で,四肢を協調させたはいはい運動の獲得過程を実現させ,リーチングやずりばいの運動経験の影響を調査する.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込額と執行額は異なったが,研究計画に変更はなく,前年度の研究費も含め,当初予定通りの計画を進めていく.また,論文詩,学会等において研究成果を発表するための諸費用に用いる.
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