乳幼児期に形成される運動能力の発達メカニズムの解明は,ヒトの知能の原理を知る上で非常に重要な課題である.一般的に,ヒトは自らの視覚や触覚,聴覚等のモダリティを通して環境から情報を受け取り,また自らの身体を通して環境に働きかけながら様々な運動を獲得していく.したがって,脳や神経系のみでなく,環境との相互作用を規定する身体性が運動発達に重要な役割を担うと考えられる.本研究では,特に赤ちゃんの柔軟な身体に焦点を当て,運動発達における身体性の役割を構成的に調査した.初年度は,空気圧人工筋骨格系を有する赤ちゃん型ロボットプラットフォームを開発した.また,超軟質ウレタンゲルを用いたシート状柔軟皮膚の試作および複数のひずみゲージを埋め込んだセンサシステムを開発を進め,静的な状態判別実験を行った. 本年度の研究成果は以下の通りである.第一に,筒型に成形した柔軟な人工皮膚内のセンサ密度を大幅に増加させ,CHLAC特徴を利用した手法によって動的な動作判別を可能にした.第二に,開発した赤ちゃんロボットに視覚系を実装し,主観的視覚が運動発達に及ぼす役割について調査した.視覚情報を利用して運動を自己評価させるよう実験を設計し,ロボットの興味をひく対象物の相対位置を変化させながら発達の様子を調べることで,感覚の主観性と環境条件の関連について明らかにした.第三に,発展的成果として,四足ロコモーションをより深く理解するための生物規範型筋骨格ロボットプラットフォームを開発し,赤ちゃんロボットの動作生成法を応用して動的走行を実現させた. 今後は,視触覚系を統合し,筋骨格系との相互作用を通じた漸次的運動発達モデル構築を目指す.また,皮膚材質や計測原理を再考し,よりロバストな触覚センシングを実現する.さらに,四足ロコモーションの歩容遷移メカニズムを解明し,乳幼児の漸次的運動発達のより多角的な理解へと昇華させる.
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