本研究は、音場という環境要因がヒトの感覚運動制御に与える影響について基礎的な知見を得ようとするものである。本年度は、前年度に構築された実験系を用いて実験的研究を行った。具体的には以下の通り、歌唱者が残響を伴った自身の歌声を聴きながら歌唱する際に、残響条件によって歌唱者の発声がどのように変化をするかを明らかにした。 (1) 歌唱実験:デジタル残響発生装置による音場呈示システム内で、母音のロングトーン発声からなる歌唱タスクを、歌唱者が発声した。 (2) 歌声と声帯振動の収録:(1)の実験の際、歌唱者の前方50cmに設置されたマイクロフォンにより歌唱者の歌声を収録するとともに、歌唱者の喉にとりつけられた電気声門図により歌唱者の声帯振動を収録した。 (3) 収録された歌声の音響的差異の検証:(2)で収録された歌声および声帯振動を信号処理により解析し、歌唱者が発声した歌声および声帯振動の音響的特徴が、歌唱者に呈示された残響条件によってどのように異なるかを評価した。その結果、残響条件によって、異なる音響的特徴・異なる声帯振動の歌声が発声されることが示された。
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