研究課題/領域番号 |
23700236
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研究機関 | 岡山県立大学 |
研究代表者 |
山崎 大河 岡山県立大学, 情報工学部, 准教授 (40364096)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | モーションプランニング |
研究概要 |
鉄棒運動や歩行運動など,身体的・動力学的な拘束を受ける状況下で行う運動タスクに着目し,以下の2つの目的を掲げて研究を進めた.1) 動力学モデルの解析を通じて,力学的に実現可能で神経系が選択可能な運動の冗長性を評価する手法を確立する.2) 運動計測とその解析を通じて,運動のばらつきの時空間的な偏りの特性を明らかにする. 1)に関しては,従来,鉄棒運動の解析に用いられていた手法を歩行運動に応用するだけでなく,初期状態の一部や運動の周期を探索パラメータに加えるように改良することで,より一般性の高い条件下での運動の冗長性を探索できるように解析手法を拡張した.この拡張により,例えば,歩幅一定や歩行速度一定などの制約下において,どのような歩容が力学的に実現可能であるのか,という疑問に答えることが可能になった. 2)に関しては,定常歩行時の大腿,下腿および足部の仰角(矢状面における鉛直方向を基準とした各部位の角度)を3次元空間中にプロットすると,データがある平面上に分布するものとして近似できるという「平面法則」に着目し,従来研究では扱われていなかった多数の座標系において,歩行運動のばらつきの解析を行った.その結果,平面性の高さ(平面による近似の精度)は座標系の取り方の影響を強く受けることを明らかにした.この結果は,神経系が運動計画を行う座標系を推定する上で,重要な示唆を与える可能性がある. 1),2)に関連する基礎的な調査として,腕の筋骨格モデルの構築とその解析を行い,筋の特性に由来する関節の粘弾性が,周期運動の安定性や運動選択に影響している可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,運動の冗長性と変動性という2つの側面から研究を実施してきた.平成23年度は,計画時の想定とは異なる面もあるが,上記の2つの側面について,おおむね着実な成果が出ていると考える. 運動の冗長性に関しては,歩行運動を対象として解析手法の拡張を行うことにより,歩行速度一定などの条件下での運動の冗長性の探索を可能にするなどの成果を上げている.また,筋骨格系の特性を考慮した冗長性の解析へ向けて,モデルの選定等の基礎的な調査や解析も行った.その結果,定量的な解析のためには,筋モデルのパラメータ決定が課題になることがわかり,その対策について引き続き検討中である. 運動の変動性に関しては,歩行運動の平面法則に着目した解析を進める中で,歩行運動の計測データを記述する座標系の違いが運動のばらつきの解析結果に対して大きな影響を与えうることが明らかになった.この問題は計画時には想定していなかったが,本研究課題全体に影響を及ぼしうる重要な視点と考えられる.例えば,運動の冗長性の評価においても,座標系の取り方に影響されない評価方法を考えるのは容易ではない.また,従来研究では,平面法則と神経系の運動制御方略との関わりも示唆されているように,平面法則が成立する座標系は,神経系による歩行運動の制御方略の推測にもつながる可能性がある.これらの点を重視して,平成23年度は,研究計画全体の中でも,特に歩行運動を解析する上での座標系の問題の調査・考察に労力を割いた.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度からは,運動の冗長性と変動性という2つの方向性の研究をそれぞれ発展させるだけでなく,両者の関連を探る方向に重点を移していく.具体的には,以下の1)~4)のような研究を進める計画である. 1) 座標系の違いが運動の冗長性や変動性に与える影響をどのように解釈するべきかという問題について考察を進める.運動の変動の解析には,モーションキャプチャによる姿勢の計測に加えて,フォースプレートによる床反力の計測も取り入れる.ただし,解析対象は,歩行運動に限らず,椅子からの立ち上がり動作や,体操競技での床運動など,身体的・動力学的な拘束を受ける様々な運動の中から適宜選択する.2) 運動の変動性に関連する指標として運動の安定性を評価する.筋骨格系の特性を考慮した動力学モデルの解析を行い,運動の変動が安定性に関連している可能性を探る.その際,全身運動だけでなく,腕の運動のようなモデル化・解析が容易な運動も部分的に取り上げる.3) 運動の冗長性の解析手法のさらなる改良を行う.具体的には筋の特性を反映した冗長性の評価方法の改良や,パラメータ空間をできるだけ隈なく探索できるようにアルゴリズムを修正することなどを検討する.4) 歩行運動の冗長性の解析結果と変動性の計測結果とを比較・考察する.これにより,歩行運動に見られる運動のばらつきの偏りが神経系の運動制御戦略によって生じるものなのか,身体的・動力学的な拘束から生じるものなのかを明らかにするなどの成果が期待される. 以上のような研究を通じて,神経系の運動制御戦略と,運動の冗長性や変動性との関連が明らかにしていくことで,俗にいう運動の「コツ」や「ツボ」に工学的な解釈を与えることができると期待している.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度経費の使用計画における主な変更点は,設備備品と謝金であった.計画当初は,鉄棒運動の計測を,広い計測空間において高精度に行うことを目的として,光学式モーションキャプチャ装置の拡張による設備備品の追加と,再実験による被験者への謝礼等の支出を予定していたが,新たな研究の展開から,歩行運動についての詳細な運動計測の重要性が増してきたため,鉄棒運動の計測を目的とした上記の設備導入を一時中断していることが,この変更の主な理由である. 平成24年度は,歩行運動での運動の変動性をより正確にとらえる目的で,モーションキャプチャのデータだけでは精度よく推定できない歩行中の床反力の計測を新たに行いたいと考えている.具体的には,24年度の設備備品費に23年度の設備備品費の一部を加えることで,床反力を計測するためのフォースプレートを導入し,歩行運動の再計測をおこなう計画である.また,本研究課題で着目する身体的・動力学的な拘束を受ける運動には,歩行運動や鉄棒運動だけでなく,椅子からの立ち上がり動作や,体操競技での床運動など,床面上で行う多くの運動も含まれる.床反力計測装置は,これらの運動解析にも応用できる. 平成24年度の研究費の使用計画には,上記の変更を除き,大きな変更は予定していない.数値解析に伴う計算機やソフトウェアの導入に必要な設備備品費や消耗品費,調査研究のための書籍等の費用,実験計測の小道具等の消耗品費,被験者や実験補助者への謝礼,学会発表のための費用,論文作成・投稿等にかかる費用などの支出を予定している.
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