研究課題/領域番号 |
23700236
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研究機関 | 岡山県立大学 |
研究代表者 |
山崎 大河 岡山県立大学, 情報工学部, 准教授 (40364096)
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キーワード | モーションプランニング |
研究概要 |
本研究では,鉄棒運動や歩行運動など,身体的・動力学的な拘束を受ける状況下で行う運動タスクを対象に,以下の2つの目的を掲げて研究を進めている.1) 動力学モデルの解析を通じて,力学的に実現可能な運動の冗長性の評価手法を確立すること.2) 運動計測と計測データの解析を通じて,運動のばらつきの時空間的な偏りの特性を明らかにすること. 1)に関して,従来の解析では,力学的に実現可能な鉄棒運動の冗長性の探索は,関連するパラメータの一部についてしか行えていなかったが,24年度は,「け上がり」運動における重心軌道のみに着目することで,その冗長性のほぼ全容に近い探索を行えることを示した.解析の結果,「け上がり」運動における重心軌道の冗長性は,別の手法に基づく従来の推測よりも大きいことが分かった.この重心軌道に着目した解析には,運動計測と比較しやすい点や,歩行運動の解析にも応用できる点など,今後の発展が期待できる. 2)に関しては,定常歩行時の下肢セグメントの仰角の間に見られる「平面法則」に着目して,歩行運動のばらつきの解析を行った.特に,平面性の高さ(平面による近似の精度)が座標系の取り方に影響される仕組みを,数理的な側面から考察した.また,歩行運動と比較して,動力学的な制約が弱く,運動学的な制約が強い,ペダリング運動に対しても,歩行運動とよく類似した平面法則が見られることを示した.この結果は,平面法則の起源が身体運動の動力学的な性質や運動学的な拘束とは別にあることを示唆する,という意味で重要な結果と考えている. また,1),2)に対して,筋の特性の影響を取り入れることを目指して,腕の筋骨格モデルの構築とその解析を行った.その結果,筋の特性に依存して決まる腕の周期運動の安定性は,水平面,鉛直面,重りを付加した状態において,それぞれ異なることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず,計画に基づく着実な進展として評価できる点は以下である.1) 鉄棒運動における重心軌跡に着目した解析によって,現実的に取り得る冗長性の全容に近い探索を行うことができたこと.2) ペダリング運動と歩行運動の解析結果の比較を行い,両者が平面法則の意味で類似した性質をもつことを示したこと.3) 筋骨格系の特性を考慮した運動のばらつきや冗長性の解析へ向けて,筋の特性や実験条件が腕の周期運動の安定性に与える影響を明らかにしたこと. 一方,予定外の展開もある.24年度は,歩行運動の平面性と座標系選択との関係に関して,従来研究で使用する仰角よりも,さらに高い平面性を生み出す座標系の存在を報告するとともに,フォースプレートを使用した運動計測・解析に発展させる研究を計画していた.しかし,座標変換に関する数理的側面についての理解が進むにつれて,データを記述する座標系が平面性の高さに影響することの背後には,座標変換によってデータの分布が特定の方向に引き伸ばされたり押しつぶされたりすることの影響が大きいことがわかってきた.これは,計画では想定していなかった知見であるが,平面法則の本質にも関わる大きな問題であり,また,平面法則だけでなく,運動の変動性や冗長性を評価する様々な解析にも広い意味で影響しうる問題ともいえる.このような重要性から,24年度は,この問題の解釈や考察に時間を割き,その反面,フォースプレートを使用した運動計測などの研究計画に遅れが発生した. 以上をまとめると,計画に沿って着実に進んでいる部分はあるものの,予定外の展開により遅れている部分もあるため,研究全体としては,当初の計画に比べやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き,25年度も,運動の冗長性と変動性という2つの方向性の研究をそれぞれ発展させるとともに両者の関連を探る.具体的には,以下の1)~4)のような柱に沿って研究を進めるとともに,これらの関係性を議論していく計画である. 1) まずは,24年度の研究計画に遅れを招く原因となった,歩行運動の平面性と座標系選択との関係についての解析結果およびその解釈のまとめを急ぐ.従来研究において主張されている仰角の重要性について,その妥当性を検討するとともに,より広い立場から運動計測の結果を異なる座標系で評価する際に必要な座標変換の特性を理論的な側面から整理する.2) 鉄棒での「け上がり」運動における重心軌道の冗長性についての解析結果と運動計測の結果の比較を進める.運動計測では,「そり型」や「振り上げ型」などのけ上がりの実施方法や,け上がり開始時の力学的エネルギーなどの条件の違いについても考慮する.3) モーションキャプチャによる運動軌道の変動の計測に加えて,フォースプレートによる力の変動の計測を導入する.解析の対象としては,椅子からの立ち上がり,歩行,ペダリングなどを予定している.4) 関節角度だけでなく,関節トルク,筋長,筋張力などの異なるレベルにおける冗長性や運動のばらつきの関係について,筋骨格モデルの解析を通じて,その基本的な性質を明らかにする.周期運動については運動の安定性との関係についても検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
計画していた研究費の大部分は既に24年度までに執行済みである.ただし,先に述べた研究進捗の遅れにより,研究の終了を24年度から25年度に延長したことに伴って,24年度に執行予定であった一部の経費について,25年度で使用するように計画を変更した.25年度での使用は,研究の成果報告やその準備のための経費(論文掲載料や文献複写費など)や被験者や実験補助者への謝礼,実験消耗品などを予定している.
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