(1) 歩行運動において潜在的に存在する運動軌道の冗長性の中で,実際に選択される平均的な運動軌道とその周りでのばらつきの一端は「平面法則」として観察される.本研究では,平面法則の成立に対して,座標系の取り方が与える影響を明らかにするため,トレッドミル上の歩行における下肢運動の計測データを,相互に変換可能な様々な座標系で表して,各座標系における平面性の高さを評価した.その結果,座標系の取り方によって平面性の高さは見かけ上大きく変化することを例示し,さらに,その数理的理由も明らかにした. (2) 神経筋骨格系の筋レベルでの冗長性や運動指令レベルのばらつきなど,より総合的な運動制御系の解析へ向けた取組みとして,活性化ダイナミクスを含む筋骨格系モデルの逆モデルの構築を行った.さらに,構築した筋の逆モデルを用いて,周期運動の運動可能条件の推定と安定化機構についての解析を行った.その結果,活性化ダイナミクスの影響によって,例えば速い周期運動における,運動可能な振幅や周期の条件が狭く見積もられることや,運動の安定性が高く見積もられる傾向があることなどを明らかにした. (3) 下肢運動における力の冗長性と変動性の関係をより詳しく調べるため,自転車でのペダリング運動において,セグメントトルクとペダル踏力の間の力の冗長性に着目した Uncontrolled Manifold 解析(UCM解析)を行った.解析の結果,ペダリング運動を制御する神経系は,ペダル踏力のばらつきを抑えるようにセグメントトルクを制御している可能性を示した. (4) ペダリング運動においても歩行運動に類似した平面法則が成立し,その平面近似の向きは負荷とともに変化すること,そして,負荷の大きさに依存した下肢姿勢の変化とペダル踏力がセグメントトルクに及ぼす影響とは部分的に関連している可能性があることを示した.
|